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2009年の総括
イントロダクション
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監督:ハラルド・ズワルト 製作年:2010年
オリジナル脚本:ロバート・マーク・ケイメン 上映時間:140分
「ワックスかける、ワックスとる」から「ジャケットかける、ジャケットとる」へ
「空手」から「カンフー」へ
そして、舞台は中国・北京へ
【イントロ】

ウィル・スミスの息子、ジェイデン・スミスがお見事。1984年のラルフ・マッチオ主演「ベスト・キッド」のリメイク版の登場である。舞台を中国に、空手をカンフーに、主人公の年齢を高校生から小学生に変更し、師弟関係と少年の成長を描く青春映画だ。

娯楽映画は時代を映す鏡と言われており、その時代の人々の嗜好のある意味指標である。リメイク版「ベスト・キッド」が、ジャッキー・チェン演じる中国人師匠とアメリカ人少年の師弟愛、というか擬似親子愛を描いていることはたいへん興味深い。84年のオリジナル版は、日本人師匠とアメリカ人少年の師弟関係を感動的に描いたドラマだっただけに、舞台を没落する日本から昇り竜の中国へと変更したリメイク版には、今のアメリカの視線の先が垣間見られる気がする。

一部では、プロデューサーとして参加するウィル・スミスとジェイダ夫妻が英才教育を施した愛する息子ジェイデンを主演に据えた親バカ映画と悪口を言われているように、ジェイデンのために作られた作品であることは間違いない。しかし、生意気なセレブの息子という雰囲気は多少漂っているが、やはりジェイデンは並みの子役ではなさそうだ。演技もアクションシーンも素晴らしい出来栄えである。オヤジを追い抜く日もそう遠くないかもしれない。ただ、子役で活躍した俳優の大成はあまり実例がないのが少しだけ気がかりだが…

しかし、何と言ってもジャッキー・チェンの枯れた存在感がこの作品を際立たせ、逆にジャッキーを輝かせている。今までのジャッキー映画はどうしてもはしゃぎすぎのジャッキーが目立ってしまい、常に浮いた存在だった。言い方を変えれば、ジャッキーが凄すぎ、他の役者がついていけないのだ。この作品では、ジェイデンとのコンビが絶妙であり、ジャッキーの今までにない魅力が発揮されている。

アクション控えめとはいうものの、ジャッキー演じるハンが、主人公ドレ少年の大ピンチに颯爽と現れ、彼を救うシーンの完成度は拍手喝采ものだ。相手の力を利用し、なるべく自分が傷つけないよう、同士討ちを誘いながら相手を倒していく…ジャッキーの名人芸が楽しめる。今までのような派手さや見世物的要素はないが、物語上の必然として使うカンフーの技のキレ、突きの重さ、安定した体幹部の重心など、完璧すぎて言葉も出ないほどである。

そして、「最高の戦いは、戦わないこと」。この台詞は、実際に武術の達人であるジャッキー・チェンが言うからこそ強い説得力を持つ。そして本気で戦うためには、基礎がいかに大切かを説く台詞も納得である。

オリジナル版では、ノリユキ・パット・モリタ演じるミスター・ミヤギの「ワックスかける、ワックスとる」のフレーズが世界的に有名になったが、この作品では、「ジャケットかける、ジャケットとる」に変更されているが、この単調な動作がやがてドレの日常生活までを変える場面につなげているのは実に上手い演出である。すべての動きにカンフーが宿るとはこういうことかと分かる見事なシーンである。

また、壮麗な中国の景色をバックに武道の修行に励む図はそれだけで美しい。一種の観光映画になっているような趣でもあるが、中国国営のプロダクション会社の助けにより撮影が可能だった、万里の長城や紫禁城、武当山など中国の名所がたくさん出てきて、ダイナミックな見所になっている。多くの観客が中国を訪れたいと思えるほど、中国にとっては素晴らしい宣伝効果がありそうだ。

山奥の寺院のシーンでは、仙人のような僧が修行中の張りつめた空気が流れ、その峻険な峰の頂上に作られた石造りの建物は神殿のごとき荘厳さが漂う。ボンドガールとしても有名なミシェル・ヨーが、コブラの心を操る訓練をするシーンでは、彼女の凛とした佇まいに思わず見入ってしまうほどの緊張感が押し寄せてくる。

ジェイデンは、ジャッキー・チェンのスタントチームコーディネーターから3ヶ月間ロサンゼルスで特訓を受けた後、映画撮影中4ヶ月間も常に練習を重ね、師匠からは5,6年カンフーを習っている子達と同レベルとまで言わしめた。ラストのカンフー大会では、子供同士とは思えない迫力満点のファイトシーンが繰り広げられる。

リメイク版とは、好評だった作品をベースにすることによって、ある程度のヒットが期待できるという映画界の安易な思惑による産物で、評論家の間では評判が悪い。そして、今回はハリウッドのトップスターの1人ウィル・スミスが妻ジェイダ・ピンケット・スミスとともにプロデュースし、自分の息子を主人公にあてた為、親の七光りをよく思わない人々と、オリジナル版をカルト映画的に観ているファン達からは、この作品は最初から否定されていたようなところがあった。

しかし、オリジナル版へのオマージュもほどよく散りばめられており、古きと新しきの混在する街の風景を見せつつ、母と子、師匠と弟子、また恋のエピソードと、実にスピーディで簡潔に様々な展開をさせ、140分という比較的長い上映時間ながら、観客の集中力を欠かさないような配慮が施されている。2010年版「ベスト・キッド」を観て、感動のポイントは人それぞれ違うかもしれないが、決して否定されるような作品ではない。親子でも、恋人同士でも、一緒に観て楽しい映画に間違いない。

 
【ストーリー&インプレッション】

柱のキズを下から上へとカメラで追っていく象徴的なシーンから始まる。期待と不安。友人との別れ…アメリカから中国に引っ越すまでを短時間に表現。テンポのよさを感じるオープニングである。

父を失い心にぽっかり穴が空いてしまった少年ドレは、母の仕事の都合でアメリカから北京に越してきた。文化の違い、言葉の違い、そして、肌の色の違い。古い伝統と新しい文明が入り混じる北京で、アメリカから来た少年は誰にも気持ちを理解されない孤独を覚える。

新しい環境の中でカルチャー・ショックを感じつつもメイ・インという少女にときめくドレ。ところが、それを快く思わない不良グループのリーダー格のチェンという悪童に目をつけられ、カンフーで痛めつけられる。いきなり恐怖を植え付けられてしまったドレに不良グループの嫌がらせはエスカレートする。

ある日、ドレが窮地に陥っているところをアパートの管理人ハンが、カンフーで不良グループを一掃。強くなりたいドレはハンに指導を仰ぐ。

不良グループはある道場の門下生であったが、そこの師範は「弱さ無用、痛み無用、情け無用」としか言わず、勝つためにはどんな卑怯な手段も正当化するような人物。ドレに手を出すなとドレと一緒に抗議に行ったハンだが、ひょんなことからドレがカンフー大会に出場することになってしまう。

成り行きでドレを特訓することになったハンだが、ドレにはジャケットを脱いでは、お手製のハンガーにジャケットを掛けさせ、それをまた着るという行為を繰り返さすだけであった。ハンの意図も分からず、ただその単純動作を渋々と続けていたドレだが、その一連の動作によりカンフーの基本動作をマスターしていることに気付き、びっくりする。

鍛える目的は敵を倒すのではなく、己に克つことだとハンは諭し、内面の成長を促す過程が心地よい。そして、本気で戦うためには基礎がいかに大切か、また、尊敬心・集中力の必要性を説くハン。「目だけで見ていたらだまされる」「やりすぎはいけない」「動かないという事は、何もしない事とはまったく違う」など、指導にも次第に熱が帯びてくる。

最初はまったく格闘技を知らなかったドレが、トレーニングで体を鍛え、技を磨き、みるみる逞しくなっていく過程がスピーディに映し出される。そして、肉体は嘘をつかないことを証明する。

ハンは悲しい過去から妻子を失い、また、父を亡くしたドレとは「失った家族」という共通項で結ばれ、擬似親子という趣がある。12歳という心身ともに成長期にある少年には、師匠の言動はそのまま父親のそれに匹敵するほどの影響力があるのだ。

やがてトーナメントが始まり、ドレとチェンは順当に勝ち進み、決勝で拳を交えることになる。ただ、準決勝では、怪我をさせろという本人も嫌がる指令を受けた相手から反則技で負傷してしまう。「ここまで本当によくやった。もう棄権しろ」とハン。しかし、なんとしても決勝で戦うと涙ながら訴えるドレ。弟子の成長に心を打たれたハンは応急処置を施し、ドレをリングに送り出す。

ここからの展開は予想通り、手に汗握るバトルが用意されている。チェンや他の同門生も彼らの師範の勝つためには手段を選ばないやり方にうんざりしていて、試合後にはドレの健闘を称え、ハンに礼をもって敬意を示すあたり、本当は彼らも強いだけの武術家より尊敬される武術家を目指しているということが描かれおり、何となくホッとする観客も多いことだろう。

正しい導きこそが子供たちを成長させるというメッセージは、大人にも強い自覚を促すものだ。本当の強さとは何かということが、ドレやいじめっ子も含めて、子供たち全員が学ぶラストが印象的で爽やかな作品に仕上がっている。

結果だけを追い求めるチェンの師範の哲学は、まさに今までのアメリカ流資本主義に通じ、反対にハンが唱えるのは厳しい鍛錬を通した自己との対話というスピリチュアルな価値観である。

アメリカ人が持ち込んだ資本主義に毒された中国人を、儀を重んじる中国人の精神を叩き込まれたアメリカ人少年が打ち破るという構図は、あまりにも急速な資本主義化に疑問を抱いている中国人が、少なからず存在する事実を物語っているようだ。

この作品は、現在、いや今後もさらに増加するであろう、中国人のアイデンティティ問題を映し出しているような気がしてならない。ま、そんな大層な事を考えず、ドレ少年の成長と、ジャッキーの枯れた演技と中国の風景を堪能すればいいのだ。ま、私のような世代だと、少年の成長物語よりも、初老の男が人生を取り戻す話の方に感動するかもしれない…。

 

キャスト スタッフ
ドレ・パーカー: ジェイデン・スミス 監督:ハラルド・ズワルト
ミスター・ハン: ジャッキー・チェン 製作:ウィル・スミス/ジェイダ・ピンケット・スミス/
メイ:ハン・ウェンウェン ジェームズ・ラセター/ジェリー・ワイントロープ
シェリー・パーカー: タラジ・P・ヘンソン 脚本:クリストファー・マーフィ
マスター・リー:ユー・ロングァン 音楽:ジェームズ・ホーナー
ハリー:ジャスティン・ビーバー 撮影:ロジャー・プラット
チョン:ワン・ツェンウェイ 編集:ジョエル・ネルソン
  美術:フランソワ・セギュアン
  製作総指揮:ダニー・エルフ/スーザン・イーキンス/ハン・サンピン
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