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2010年度のバックナンバー
監督:ベネット・ミラー 公開日:2011年11月11日
原作:マイケル・ルイス 「マネー・ボール」 上映時間:133分

常識を打ち破る理論で野球を変えた
ひとりの異端児の闘い。

【イントロ&インプレッション】

巨人軍のお家騒動はまだ終止符を迎えようとはしていない。コトの発端になったは清武代表の爆弾発言だが、彼のもう1つの肩書きである「GM」というポジションは、日本ではあまり馴染みがなく、いま1つピンとこないかも知れない。

端的に言えば、チームを作り上げることに権限を持つ者、ということになるのだが、日本では、球団によってその権限を持つ職種が微妙に食い違っており、複数にクロスオーバーしているケースも多いようである。しかし、米国プロスポーツ界では、オーナーから得た資金でチームを作り、日々の運営までのすべてに権限を持つ絶対的存在なのである。

「清武の乱」が起きた同じ11月11日から全国で劇場公開が始まった「マネーボール」は、経済学の専門家が作り上げた分析資料を駆使して、金満球団ニューヨーク・ヤンキースの3分の1の資金で集められた「格安」選手を使って、オークランド・アスレチックスの黄金期を作り上げ、米国メジャーリーグ界に新風を吹き込んだビリー・ビーンGMの半生を描いた作品で、ブラッド・ピットが演じている。

米国メジャーリーグ界に新風を吹き込んだビリー・ビーンGMの半生を描いた作品で、ブラッド・ピットが演じている。

アメリカでは、社会同様、球団の経済格差もとてつもなく大きい。ニューヨーク・ヤンキースの選手年俸総計は軽く2億ドルに達する一方、今年もプレイオフに進出するなど常勝球団になりつつあるタンパベイ・レイズは4000万ドルそこそこである。

このような状況では運営手法にも大きな違いをもたらすことになり、1990年代の終わり、オーナーが代わり緊縮財政を取らざるを得なくなったオークランド・アスレチックスのGMに就任したビーンは、それを「セイバーメトリクス」と呼ばれる科学的統計に求めたのだ。

アメリカ同様、日本でも球団財力には著しい差がある。金満球団の代表が巨人やソフトバンクなら、貧乏球団(失礼!)の典型は広島東洋カープである。これまでも、主力選手がFA権を獲得すると、その高額年俸からチーム内に留めることができず、江藤、金本、新井といった主力をことごとく金満球団へと提供してきた。

アメリカでは、FAとして有力選手が流出すると、代わりに獲得した球団からドラフト指名枠をもらうことができるのだが、日本では、優秀なる28人のプロテクト選手以外の残り物かカネという選択肢なのだ。

このところ、主力としていきなり使えるドラフト上位指名選手が数多くいることを考えれば、米国スタイルの方が貧乏球団には有り難い。近年はメジャーリーグへの流出も多いので、権利金のもらえる入札制度も魅力なのだが、昨年、制度を使った楽天の岩隈投手に対し、アスレチックスは交渉権を得ながら、契約はまとまらなかった。単にエージェントが高額年俸をふっかけた作戦の失敗なのか、それとも、ビーンGMの制度に対する挑戦なのかは定かではない。

余談ながら、球界一の金満球団であり、球界の盟主を自認する巨人軍は、FA選手をカネで集め、ドラフト枠は「巨人以外なら行かない」という「圧力」により、事実上無競争で一流選手を獲得する戦術を取ってきた。その巨人軍の清武GMは、育成選手制度を作るなど、球界改革を行ってきていることへの評価も高いのだから、今回の行為も、ジメジメした巨人軍内部の問題にとどめず、古色蒼然とした球界のヒエラルキーへの挑戦にまで昇華させてもらいたいものである。

オークランド・アスレチックスのGMに就任したビーンは、それを「セイバーメトリクス」と呼ばれる科学的統計に求めたのだ。

さて、ビーンGMが取り入れた「セイバーメトリクス」と呼ばれる独自の手法は一体どのようなものなのか、簡単に勉強しておこう。

「セイバーメトリクス」とは、野球においてデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法である。もともと、「セイバーメトリクス」は、野球ライターで野球史研究家・野球統計の専門家でもあるビル・ジェームズによって1970年代に提唱されたもので、アメリカ野球学会の略称「SABR(Society for American Baseball Research)」と「測定基準(metrics)」を組み合わせた造語である。

野球には、様々な価値基準・指標が存在するが、「セイバーメトリクス」では、これらの重要性を数値から客観的に分析した。それによって野球における采配に統計学的根拠を与えようとしたのだ。しかし、それは野球を知っているものならば「常識」であるはずのバント・盗塁の効力を否定するなど、しばしば野球の従来の伝統的価値観を覆すものであると同時に、ジェームズ自身が本格的に野球をプレーした経験が無く、無名のライターに過ぎなかったこともあって当初は批判的に扱われた。この理論が一般的に知られるようになった現在でも「野球はデータではなく人間がプレーするもの」という野球哲学を持つ人々からは歓迎されていない風潮があるのも、これまた事実である。

1983年にオークランド・アスレチックスのGMとなったサンディ・アルダーソンは、元弁護士でプロ選手経験が全く無く、過去の常識に縛られることがあまり無かった。そのため、「セイバーメトリクス」に興味を持ち、出塁率を徹底重視することをマイナーの選手たちに説いた。1995年にオーナーの交代によってチームの財政状況が厳しくなると、より効率的に資金を運用するためにメジャーチームでも出塁率・長打率を重視して球団運営を行うようになった。

1990年代後半にはメジャーリーグでもチーム戦略の一環として重視されるようになり、「セイバーメトリクス」を重視するチームは新思考派と呼ばれた。特にアルダーソンの後任として1997年にアスレチックスのGMとなった、今回の作品の主人公でもあるビリー・ビーンの球団運営戦略を紹介したマイケル・ルイス著のノンフィクション「マネー・ボール」により、日本でも一般的に知られるようになった。

今回の作品の主人公でもあるビリー・ビーンの球団運営戦略を紹介したマイケル・ルイス著のノンフィクション「マネー・ボール」により、日本でも一般的に知られるようになった。

ちなみに、野球と統計の関わりはジェームズの研究から始まったものではない。1800年代からすでに野球をデータ化する試みは始まっており、1845年には「ボックス・スコア」が発明されていた。そして、野球における最もポピュラーな指標といえる打率も1859年には誕生している。

イギリス人ジャーナリストのヘンリー・チャドウィックによって生み出されたこの指標は、打者の攻撃能力を測る指標だが、チャドウィックが「四球は完全に投手のミスによる産物である」としたために、四球は含まれず安打のみで算出された影響で、出塁率は長きに渡って打率に比べ低い扱いを受けることとなった。チャドウィックは打点という指標も作ったが、打点を打者個人の手柄にしてしまったが、実際には塁上に走者がいるか否かは打者側から見れば偶然の要素が大きい。仮に偶然で無いならば、むしろ走者になった選手の貢献が打者より大きいはずである。このように、正確性を期そうと単純化を図るあまり、当時の指標には現実と乖離したものが多かったようだ。

ビリー・ビーンは、野球を「27個のアウトを取られるまでは終わらない競技」と定義し、それに基づいて勝率を上げるための要素を分析した。過去の野球に関する膨大なデータの回帰分析から「得点期待値」というものを設定して、これを上げるための要素を持つ選手を良い選手とした。例えば、出塁して長打で得点することが最も効率的なのだ。

チーム編成や選手獲得の基準は、状況(運)によって変動する数値は判断基準から排除され、本人の能力のみが反映される数値だけに絞り込んで評価することが最大の特徴である。

ビリー・ビーンは、野球を「27個のアウトを取られるまでは終わらない競技」と定義

野手としての重要な要素としては以下のようなものがある。

出塁率:
打率ではなく、四死球や振り逃げも含めた出塁する率。ビーンの定義に基づけば、「アウトにならない確率とは打者の投手に対する勝率」である。打率は高いに越したことはないが、高打率の選手はコストがかかるため、打率が多少低くても出塁率の高さを優先して選手を獲得した。

長打率:
塁打数を打数で割った値。ヒット、特に長打を打った数が多い打者ほど数字が大きくなる。これと出塁率を合算した「OPS(On-base plus slugging)」の数値をビーンはチーム編成で最重要視した。通常、OPSは出塁率と長打率は1:1の比率であるが、ビーンは出塁率と長打率の比率が3:1の指標も使用し、出塁率により重きを置いている。

選球眼:
ボールを見極め、四球を選び、出塁率を上げるために必要な要素。投手により多くの投球をさせる能力、言い換えれば「粘る力」は、相手投手の疲弊を招き、四球を得る確率の向上に繋がるためである。平均して中継投手は先発投手よりも能力が劣るため、相手投手を疲弊させて投手を交代させれば、さらに出塁率を上げることが出来る。劇中にも登場した実存するジェイソン・ジアンビの弟のジェレミー・ジアンビは、総合的な打者としての能力は兄とは比較にならないほど低かったが、粘る力においては兄を上回っていたためレギュラーとして起用された。 長打率に比べ、加齢によって低下することが少ない能力である。

一般的には努力により向上させられると考えられているが、ビーンは、選球眼は天賦の才で決まる、また野球の成功(勝利)に最も直結する能力である、と結論づけている。

慎重性:
選球眼に併せて重要視され、待球打法を良しとする。ボール・ストライクに関わらず自分の苦手な球に手を出さないこと。ビーンの理論では必ずヒットに出来る保証がない限り、ヒットになる可能性の低い球に手を出す打者は好まれない。また、初球に手を出すことも否定する。選手の気質に依存する部分が大きく、ドミニカ出身の選手は積極的に初球を打ちに行く傾向がある。コーチングにより改善できる部分はごくわずかという。

そして、あまり重要視されない要素としては、以下のようなものがある。

バント・犠打:
ワンアウトを自ら進呈する、得点確率を下げる行為と定義して、完全否定した。犠打で進塁させることで上がる得点の期待値は、そのまま強攻させるより小さいためである。具体例としては送りバントが挙げられる。無死ランナー一塁の場合、送りバントで走者を進塁させることが、保守的な野球観を持つものにとってはセオリーであると考えられているが、得点期待値を下げるだけの行為と捉えた。ビーンの考えが球界全体に浸透してきた近年では、逆に多用させるようになった。

盗塁:
あまり意味の無い行為と定義した。全ての盗塁の内、成功するのは70パーセント前後。盗塁を試みてアウトになるリスクを冒してもホームベースを踏んだ場合に得られる得点は1点であることに変わりは無い。統計学的見地から見ても、アウトになるリスクを冒すより、塁上に留まって長打を待つ方が得点確率が高い。また、盗塁を狙う選手はごく一部であり、普遍性が無い。同様にヒットエンドランも高いリスクに対し、得点確率向上への影響が乏しくビーンの理論では非効率であるが、近年は犠打と同じく一部選手には多用させるようになった。

打点・得点圏打率:
打者がヒットを打った際の走者の有無は、その打者自身の能力が導いたのではなく、単なる偶然である。また、得点圏打率など「好機に強い」ことも重要ではない。その打者が打った時に偶然走者がいたために「勝負強い」というイメージが刷り込まれただけに過ぎない。得点圏での打席数は全打席より当然ながら少ない。サンプル数が少なくなればなるほど確率は実際の数値より「揺らぎ」が大きくなる。得点圏打率が通常の打率より高くなったり低くなったりするのは、選手の能力よりも「揺らぎ」の影響のほうがはるかに大きいのである。

失策、守備率:
失策であるか否かは記録員が判断するため、主観的であるとしている。守備範囲が広く、積極果敢に打球を取りに行く選手のほうが、守備範囲が狭く打球を追うことに消極的な野手よりもかえって失策が多くなる。つまり、ヒット性の当たりにも追いつけてしまうがための失策があるということだ。数字として存在しても選手の能力を示す数値としては機能していない。守備力は回帰分析するためのデータが蓄積しにくいことや、試合に及ぼす影響が攻撃力よりも少ない。 ビーンは、フィールドに数百の座標を設定し、打球の速度・軌跡を調べ、「速度○○、軌道△△を伴い地点××に落下した打球」という風に打球をより厳密に判別する手法を導入した。それによって、打球を処理した野手の守備力の数値化を図ったが、野手の捕球するまでの行動が反映されないなど問題もあるため重要視はしなかったようだ。

打率は高いに越したことはないが、高打率の選手はコストがかかるため、打率が多少低くても出塁率の高さを優先して選手を獲得した。

投手に関しては、野手で重要視された要素を逆に与えないことに重きを置いた。つまり、得点される可能性を下げ、アウトを稼ぐ能力のみを評価した。

与四球:
打者の選球眼を最重要視することの裏返しである。塁間を移動中にアウトにならないため、与えることが望ましくない。そのため、試合において敬遠は戦術として用いられない。敬遠が相手の得点期待値を低下させることは極めてまれだからである。

奪三振:
最もシンプル(確実)にアウトに出来る方法。フェアグラウンドに打球が沢山飛べば、その分安打になる確率と、失策によって出塁を許す確率が上がってしまうためだ。

被本塁打:
投手に責任がある唯一の安打。しかし、被安打数とはカウントしない。

被長打率:
投手が対戦した打者の打数の合計で被塁打を割った値。ヒット、特に長打を許した数が少ない投手ほど数字が小さくなる。失点確率を低くするためには長打を打たれないことが重要になるため重視される。打たれた場合の打球がゴロであれば、長打となる率は低くなる。そのため、打たれた打球がゴロになる率も評価基準として取り入れた。

投手に責任があると考えられていた要素の大半は、投手以外の球場や野手といった状況(つまり運)に依存するために重要視されない要素は以下の通り。

被安打数:
フェアグラウンド内に打球が飛んでも、それが安打となるか否かは野手の守備能力や運に依存する部分が大きい。つまり本塁打以外のフェア打球は投手には責任は無いとする。

防御率・自責点:
打者の打点と同様に、周囲の状況によって大きく変動する要素のため重要視しない。

勝利数・セーブ:
投手自身の能力に依存する数値ではなく、采配により作為的にコントロールできる。「抑えの投手は誰でも可能。9回の抑え投手よりも7・8回に優秀な投手を起用した方が勝率が上がる」とビーンは語っている。

球速:
必ずしもアウトを取る能力には結び付かない。遅い球しか投げられなくとも、上記の要素を満たしていることを重んじた。

アスレチックスが獲得する選手は、他球団で評価されない「欠陥品」や「傷物」とされた選手である。

大切なことは、「重要視されない要素」そのものは、ほとんどは完全否定はされていない。野球の競技を構成する要素であるため、これらの要素(能力)が高いことは勝率上昇に繋がることは間違いない。ただ、影響が乏しいと判断されたため、「限られた資金の中で、レギュラーシリーズを戦い、高い勝率で終える」という戦略目的において重要度が低いだけである。

アスレチックスが獲得する選手は、他球団で評価されない「欠陥品」や「傷物」とされた選手である。この欠陥とは他球団の価値基準においてであり、アスレチックスの基準においては必ずしも問題とはならない。

重要視される要素を有していれば、これらの欠陥はほとんど問題にされない。 劇中にも登場する、ボストン・レッドソックスの捕手だったスコット・ハッテバーグは、捕手として致命的な利き腕に怪我を負い、手術したため選手生命は絶望的な評価をされ、年俸が低かった。

しかし、高い出塁率を残していたことをアスレチックスに注目され、アスレチックスに内野手として獲得された。その結果、主軸打者として活躍した。選手が競技者として致命的な怪我を負い復帰した直後は、市場価値が急落しているために、交渉しやすいことが利点である。つまり、低年俸選手なので簡単に獲得できる訳だ。

その結果、主軸打者として活躍した。

有望な若手選手とは、年俸調停権やFA権を取得する前の早い時期から複数年契約を結ぶことで年俸を抑制した。そうすることによって、年俸を低く抑え、コストパフォーマンスが極めて高い選手となる。しかし、FA権を取得すると、年俸が必然的に上がるため、トレードでの放出要員となる。

また、年俸が高くなると判断した選手は、躊躇なくトレードに出すのも特徴である。その場合、獲得するのは原則として、若手で重要視する要素を満たしている選手である。アスレチックスでの要素は、他球団では年俸に反映されることがあまりなく、低い移籍金で獲得が可能である。そして、FA権を取得した選手もほとんど引き止めることはない。FA権を用いて選手が他球団へ移籍した場合、MLBの制度ではドラフト指名権が優遇されるため、代替選手の獲得も容易となるためである。

逆に、状況を活用し、並の選手の数値(セーブポイントなど)を上げ、高い移籍金で売り飛ばす方法で運営資金を獲得した。「マネー・ボール」の中では「がらくたを押しつける」と表現されている。

チームの主軸の年俸が上がったために手放した場合でも、その選手の能力を細分化し、複数の選手を獲得・運用することでその穴を埋めた。「将来性」といったようなデータで証明できない曖昧な要素は考慮せず、即戦力を求めるのが特徴だ。 選手生命に影響するような怪我をした直後の選手は、市場価格が暴落するため、獲得に動くことは常套手段の1つである。

旧来の、スカウトの経験や勘暗による選手評価を全否定し、客観的データ主義を徹底した。体格やバッティング・ピッチングフォームなどの外見は考慮しない。あくまで、要素を満たす選手を獲得することに注力した。

スカウトの選手を判断する基準が、「この選手は伸びる」「才能を秘めている」など、主観的であったことや、元選手のスカウトが選手時代の経験に基づいて判断を行っていたため、不確実であることや戦略立てて選手を獲得出来ないという欠点を抱えていた。また、スカウト陣が閉鎖的・前時代的な価値観を捨てられず、ビーンの方針とそぐわなかったため、大半を解雇したことは有名だ。

スカウト陣が閉鎖的・前時代的な価値観を捨てられず、ビーンの方針とそぐわなかったため、大半を解雇したことは有名だ。

また、選手の身辺調査・素行調査も行い、本人の言動・交友関係・家族の犯罪歴の有無などから将来悪影響を及ぼす可能性があると判断した選手は徹底して獲得候補から排除した。また、不確実性の排除は、そのまま高校生選手の獲得の排除に繋がった。

ビーン政権下のアスレチックスは、レギュラーシーズンには強さを見せ、毎年のようにプレーオフに進出するものの、ワールドシリーズには進出できていない。

この原因には、出塁率等を重視するチーム編成・戦術は、多くの試合を重ねる中で勝率を高めていくことに主眼を置くものであり、勝率ではなく、先に定められた数の勝利を挙げなくてはならない短期決戦には必ずしも向いてはいない点にあるといわれている。そもそも、最大でも7試合しか行わないプレーオフでは、数値に「揺らぎ」が出やすいため、長期のレギュラーシーズンに比べて、チームの戦略や選手の能力よりも運や偶然が結果を左右しやすい。ビーンも「プレーオフまで進出させることが仕事」と、現状の分析方法および戦術の短期決戦における限界を認めている。

この原因には、出塁率等を重視するチーム編成・戦術は、多くの試合を重ねる中で勝率を高めていくことに主眼を置くものであり、勝率ではなく、先に定められた数の勝利を挙げなくてはならない短期決戦には必ずしも向いてはいない点にあるといわれている。

ビリー・ビーンがアスレチックスで実践している「マネー・ボール」の思想は、「低予算でいかに好チームを作り上げるか」という発想に根ざしている点にある。ビリー・ビーンが出塁率を重要視したのは、それが理に適っているだけでなく、他チームがそれを軽視していたため、「セレクティブ・ヒッター(選球眼が鋭い打者)」を安価で獲得することが出来たからである。すなわち、貧乏球団が金満球団と互角に戦うために編み出された苦肉の策であり、言わば「貧者の野球理論」なのである。

アメリカ映画はサクセスストーリーが大好物。そして、それが幾多の挫折を乗り越えて掴む栄光ならひとしおだ。ビリー・ビーンは、今では球団経営の手法の1つとして定着している「セイバーメトリクス理論」を実践し、貧乏球団を常勝集団に変え、公式戦20連勝という記録的偉業を成し遂げた実在の人物である。

公式戦20連勝という記録的偉業を成し遂げた実在の人物である。

他球団から見捨てられた選手の隠れた才能を引き出し、輝かしい実績を残すが、ビリー・ビーン自身は華やかなヒーローではない。短気で頑固者だが常にチャレンジャーであり続けたいと願う、欠点だらけの人間である。しかし、そこに彼の魅力がある。

2004年、彼のもとに伝統ある人気球団にして金満球団でもあるボストン・レッドソックスから破格の年俸でGM就任のオファーが届いた。考え抜いた末に出した結論は、アスレチックスのGMに留まることだった。誰から見てももったいないとしか言いようがないこの結論を出した理由は、ビーン自身の球歴にあった。

高校時代、すべてが揃った選手と誰もが認めるプレイヤーだったビーンは、学業やアメフトの能力にも長けており、奨学金でスタンフォード大学に通うことが決まりかけていた。しかし、ニューヨーク・メッツからドラフト1巡目で指名を受け、高額の契約金を提示され、ビーンはプロ入りを決意した。

その後、紆余曲折の末始まった選手生活では大した成績も残せず、27歳で早々と引退することになる。その時、大学に行かなかったことを随分と後悔し、「二度とカネでは動かない」と心に決めたのだという。

ちなみに、ビーンの代わりにレッドソックスGMに就任したセオ・エプスタインは、ビーン同様「セイバーメトリクス」を使い、「バンビーノの呪い」と呼ばれ長年遠ざかっていたワールドチャンピオンの座にレッドソックスを押し上げ、カネも名誉も一気に手にすることになるという、皮肉な逸話も残っている。

効果があると分かれば、他も真似をするわけだから、金満球団でも「セイバーメトリクス」を取り入れるところが増えている今、優位性も落ちてきていると言える。洋の東西問わず、資金に乏しい球団は、常に新たなるローコスト・ハイパフォーマンスの手法を生み出していかなければ、すぐに金満球団の餌食になってしまうのが現実なのだ。

派手な感動的シーンを控え、実話を淡々とクールに仕上げているところに好感が持てる。エンターテイメントとしても良く出来た作品だが、「人材活用」という視点で企業経営者がこの作品を観ると、いろいろと参考になるかも知れない。

派手な感動的シーンを控え、実話を淡々とクールに仕上げているところに好感が持てる。

 
【余談ながら…】

「常識」の呪縛は、何も野球に限ったことではなく、どんな世界でも見られるものである。古くさい慣習や評価法に囚われていると、優秀な人材や大きなチャンスをみすみす逃してしまうことがある。

過去の経験に裏打ちされていると勝手に思い込んでいる「常識」には、間違った認識が混在しているケースが多く、頼りになるのは客観的なデータなのかも知れない。脳科学の実験でも、事実とは違っていても、自分の思いたいように、意図せず記憶を置き換えてしまうことがあることが示されているから、なおさらのことだ。

「常識」の呪縛は、何も野球に限ったことではなく、どんな世界でも見られるものである。古くさい慣習や評価法に囚われていると、優秀な人材や大きなチャンスをみすみす逃してしまうことがある。

「非科学的」戦略を見直したデータ重視野球は、1970年代終わりから80年代初めにかけての広岡野球、そして、90年代に始まる野村ID野球と、日本ではお馴染みの戦略は、ビーンより早くから取り入れられている。

ただ、データをいじくり回すのが大好きなアメリカ人のこと。データの蓄積そのものは昔からされており、「セイバーメトリクス」という言葉の生みの親ビル・ジェイムズが、警備員の仕事をしながら集めたデータをまとめあげ、1977年から自費出版し始めていた。メジャーリーグという巨大組織を変革する原動力が、名もない庶民の趣味というのがいかにもアメリカ的で夢がある。

ビーンの選手獲得戦略は、すべてが揃った選手ではコストがかさむから、訓練では得にくい天性の才能を持ってさえいれば、他の要素には目をつぶるというものだ。「パワーは後からつけられるが、ストライクゾーンを操る能力は訓練で得られるものではない」という理論である。

ビーンの選手獲得戦略は、すべてが揃った選手ではコストがかさむから、訓練では得にくい天性の才能を持ってさえいれば、他の要素には目をつぶるというものだ。

ただ、実際に選手たちがパワーをつけることを望むようになると、ステロイド使用に走ってしまっていたのが1990年代から2000年代初めのメジャーリーグの風潮である。「マネーボール」に登場する、ジェレミー・ジアンビー、ミゲール・テハダといった選手たちも使用を認めているし、マーク・マグワイア、ホセ・カンセコといった、以前のアスレチックスのスター選手にもなぜかステロイド使用が多いのは、単なる偶然か、はたまた必然なのか、定かではない。

1989年の大ヒット映画「メジャーリーグ」で、お荷物球団インディアンスのノーコン投手を演じたチャーリー・シーンも、もともとドラッグやアルコールで問題を起こしているお騒がせ男であるとはいえ、映画出演のために短期間ステロイドを使用したことで、速球のスピードが時速10キロも上がったとの発言をしているほど、アメリカではアマチュア選手の間にもステロイド使用は蔓延していたのだ。

インディアンスのノーコン投手を演じたチャーリー・シーン

今年の日本のプロ野球は、公式使用球が「飛ばないボール」に統一されたこともあり、ホームラン数が少なく、いま1つ華やかさに欠けていた感じである。ビーンがGMの座に就いた頃のホームランが量産されていたメジャーリーグと比べれば、派手なハリウッドアクション映画と単館上映のドラマほどの差があるかも知れない。

もちろん、そのホームランの多くがステロイドの力を借りたものだったことは、今では周知の事実だが、そんなことを知るはずもなく当時見ていた試合は迫力満点だった。野球をスポーツではなくエンターテインメントと捉えるなら、ホームランが乱れ飛ぶ派手な野球が勝ることは間違いない。

カネをいかに節約するかという経営をしてきたビーンの姿が新鮮に映るのも無理もない。

その極致とも言えるのがバリー・ボンズ選手によるホームラン新記録に沸いた2001年のシーズンだ。そんな熱狂の中、100万ドルの価値を持つことになる新記録のホームランボールを奪い合う人々の姿を描いた「100万ドルのホームランボール」から見えてくるのは、何事もカネというアメリカの姿である。

そんなカネをいかに節約するかという経営をしてきたビーンの姿が新鮮に映るのも無理もない。映画「マネーボール」は、イケイケ感覚で経済を動かし、今ではすっかり疲弊してしまったアメリカそのものに向けたエールであり、サジェスチョンかも知れない。

 

キャスト スタッフ

ビリー・ビーン:ブラッド・ピット

監督:ベネット・ミラー
ピーター・ブランド:ジョナ・ヒル 脚本:スティーヴン・ザイリアン/アーロン・ソーキン
アート・ハウ:フィリップ・シーモア・ホフマン 原作:マイケル・ルイス『マネー・ボール』
スコット・ハッテバーグ:クリス・プラット 製作:マイケル・デ・ルカ/レイチェル・ホロヴィッツ
デービッド・ジャスティス:スティーヴン・ビショップ ブラッド・ピット
タラ・ビーン:キャスリン・モリス 製作総指揮:スコット・ルーディン/アンドリュー・S・カーシュ
シャロン:ロビン・ライト マーク・バクシ
ミゲル・テハダ:ロイス・クレイトン 音楽:マイケル・ダナ
ジョン・メイブリー:デイヴィッド・ハッチャーソン 撮影:ウォーリー・フィスター
  編集:クリストファー・テレフセン
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