2013年度鑑賞作品
アウトロー
 
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Jack Reacher
その男、行き着く先に
事件あり。

公開初日という言葉は独特の響きがあり、どうしても観たくなるというのが人情である。それが金曜日であり、興味ある作品なら尚更だ。ということで、またまた「テッド」鑑賞は後回しになった。昨日鑑賞した映画は、トム・クルーズ主演の「アウトロー」。

トム・クルーズ主演の「アウトロー」

「アウトロー」は、イギリス人作家リー・チャイルドのベストセラーハードボイルド小説「ジャック・リーチャー」シリーズ17作品の中から第9作目の「ワン・ショット(One Shot)」を映画化した作品。リー・チャイルドは元グラナダTV(ジェレミー・ブレッドのシャーロック・シリーズの制作会社)勤務のサラリーマンだったが、シャーロックの終わった年の1995年にリストラされた。

その後、リー・チャイルドは「ジャック・リーチャー」シリーズの執筆をはじめ、1997年に第1弾である「キリング・フロアー」で文壇デビューした。数種の文学賞を受賞するスマッシュヒットを記録し、それ以来、ジャック・リーチャーだけに全力投球。既に17冊刊行し、4冊が翻訳され、映画化を機に本作も「アウトロー」の邦題で刊行されることになっている。

リー・チャイルド

映画化されたのが、傑作とされるシリーズ第1弾「キリング・フロアー」ではなく、中途半端な9作目という事に多少の疑問は残るが、制作サイドからは「映画的な作品だから」というコメントが伝わっている。ただ、傑作になりうる「キリング・フロアー」を2時間弱でじっくり展開させたいという思惑で、主人公のキャラクターが分かりやすい今回の作品でキャラ付けを終わらせておきたかったのではという憶測もあるようだ。

「ユージュアル・サスペクツ」の脚本でアカデミー賞脚本賞を獲得したクリストファー・マッカリーが監督、脚本を務めている。これまでのトム・クルーズ主演映画のイメージとは、かなり雰囲気の違う主役像である。

当初、原作でのジャック・リーチャーは身長6フィート5インチ(約195センチ)の大男という設定のため、ハリウッド俳優の中では比較的小柄といわれているトム・クルーズが主演を務めることに不安の声も上がっていたようだ。しかし、原作を知らなければスクリーンの中のトムが演じるジャック・リーチャーに違和感もないし、全米公開後も、映画を観た観客の中から不満はあまりでなかったようだ。ま、身長190cm以上、体重114kg、しかも、青い目をしたアメリカ人で、観客を呼べる俳優のキャスティングはかなり難しいとも考えられる。

ハリウッド俳優の中では比較的小柄といわれているトム・クルーズが主演を務めることに不安の声も上がっていた

主人公のジャック・リーチャーは面白いキャラクターである。面白いと言ってもコメディではない。彼には「掟」というものが5つある。まず、「職には就かない」。実は元米国陸軍のエリート捜査官で、除隊後は一匹狼となり、気の向くままにアメリカ中を放浪する流れ者となる。次に、「家は持たない」。主にモーテル暮らしの放浪生活で、家も車も持たない。移動は徒歩かヒッチハイク、長距離の移動はバスを利用する。人からクルマを借りることも多々ある。

そして、「携帯電話は持たない」。クレジットカード、携帯電話、e-mailなどの所在場所を特定されるようなものは一切所持しない。人とのつながりを避け、仲間や恋人、家族など煩わしい人間関係は持たない。普段は肉体労働をしたり、軍の少ない保証金で食いつなぐか、欲という感覚を持たないため、苦にもせず、気の向くままの人生を過ごしている。

また、「交渉には応じない」。非情にストイックで無口。頭脳明晰で抜群の記憶力、推理洞察力を持つ。いかなる環境でも戦闘能力を高い状態で長期間維持でき、白兵戦に長け、射撃の腕前は右に出る者がいない。最後に、「悪は決して許さない」。自分自身に絶対的な自信を持ち、権力には決して屈しない。事件が彼を呼ぶのか、彼が事件を巻き起こすのか、行き着く先には常に事件が待ち受け、彼は自分のルールで世の悪者たちを容赦なくなぎ倒す。ジャック・リーチャーとはこんな男である。

彼は自分のルールで世の悪者たちを容赦なくなぎ倒す

ハイテク武器や科学捜査とは無縁で、警察や法律は無視し、己のルールに従って、たった1人(途中2人になるが…)で悪に鉄拳をくらわせる一匹狼。何となく70年代のレトロな空気感が漂う。今や忘れ去れてしまったハードボイルドの香りすら感じさせる。頭脳明晰だが地味。犯行現場を足で歩き、マメな聞き込みから小さなヒントを拾って、事件の真相に迫る。これは、「ミッション・インポッシブル」シリーズのイーサン・ハントの華麗さとは対極にあるようだ。ただ、強靭な肉体と驚異的な洞察力で物事の真実を見極めていく姿は、スーパーヒーローではないが「ただ者」ではない雰囲気を強烈に醸し出す。

尊敬すべき高潔な人物で、助けを必要とする者を救う。素晴らしいマインドを持ち、ウィットに富んだ男であるが、考えようによれば、かなりのアナログ人間で、ちょっとオシャレなホームレスとも言える。どこからともなく現われて悪者をやっつけ、そして、どこへともなく去っていく…、まるで現代のシェーンか…ってなツッコミがありそうだ。

かなりのアナログ人間で、ちょっとオシャレなホームレスとも言える

真昼のピッツバーグ郊外で無差別に6発の銃弾が撃ち込まれ、5名が命を落とすという事件が発生したことから物語が始まる。警察は事件発生後1時間という早さで、元軍人で腕利きスナイパーだったジェームズを容疑者として拘束する。だが彼は容疑を全面否認し、かつて軍の内部で一目置かれていたジャックへの連絡を求める。

バーは刑務所への護送中、他の囚人たちに襲われ意識不明の状態となってしまう。そんな中、突然警察にジャック・リーチャーが現れ、凄腕の軍のスナイパーであるバーが標的を外す訳がないと指摘。何かがおかしいという確信を持ち始めたリーチャーは、一見単純なこの事件の裏にある隠された真相を暴くべく、バーの弁護士ヘレンと共に行動を開始する。

弁護士ヘレンを演じるロザムンド・パイクは、日本公開が2003年の「007/ダイ・アナザー・デイ」でフェンシング選手のミランダ・フロストに扮したセクシーな美人女優。

「007/ダイ・アナザー・デイ」でフェンシング選手のミランダ・フロストに扮したセクシーな美人女優

この10年で大人っぽくなったものだ…。ロンドンで生まれ、父親はオペラ歌手、母親はヴァイオリニスト。オックスフォード大学で英文学を学び、優秀な成績で卒業している。両親の仕事の都合で7歳までヨーロッパ各地で育ったためフランス語とドイツ語を流暢に話、ピアノとチェロもたしなむという才女である。大学在学中にアーサー・ミラーやシェイクスピアなどの舞台やTVで活動、学生時代に来日しており、大阪の吹田市にあるメイシアターで芝居の公演を行っている。

この作品は、1970年型のシボレー・シェベルでのカーチェイスが1つの見せ場。CGなし、スタントマンなしのカーアクションは、トム・クルーズ本人がハンドルを握る。何でも自分でやらなきゃ気が済まない「オレ様」タイプの面目躍如と言える。また、カーチェイスの最中にエンストを起こす「もたつき」感を演出し、緩急で緊張感を煽ることも忘れない。

1970年型のシボレー・シェベルでのカーチェイスが1つの見せ場

ただ、アクションだけでなく、真相をめぐって二転三転する謎解き要素も楽しめるので、アクションファンもミステリーファンにも満足できる仕上がりとなっている。

彼に協力する女弁護士が凶悪犯に誘拐されるが、携帯電話を持たないジャック・リーチャーは凶悪犯との連絡を公衆電話で行うなど、あくまでもアナログタイプの自分のスタイルを崩さない。しかも、他人とのつながりを必要とせず「人と特別な関係を持たない」彼は、犯人に向かって「女は好きにしろ」とヒーローらしからぬコメントを残し、電話をガチャンと切る。これにはヘレンはおろか、犯人たちまでも「えっ!」となってしまうが、すぐさま電話をかけ直し「気が変わった、貴様はブチのめす」と強烈な脅し文句を叩きつける。何となく古臭さも感じるが、ジャック・リーチャーのキャラクターらしいシーンの1つかも知れない。

犯人に向かって「女は好きにしろ」とヒーローらしからぬコメントを残し、電話をガチャンと切る

また、犯人にでっち上げられたバーが通っていた銃砲店兼射撃場の店主キャッシュを好演したロバート・デュヴァルがひじょうにいい味を出している。真相究明のためにやってきたジャック・リーチャーが陸軍出身と知ると「アーミー」と呼び小馬鹿にする。このセリフでキャッシュが元海兵隊員だと察しがつく。海兵隊員は陸軍以上に過酷な訓練をするので、兵士としての「格」、特に射撃に関しては自分たちのほうが上という自信と誇りを持っている人種。なお、ロバート・デュヴァルの父親もアメリカ海軍に所属する軍人だったようだが、デュヴァル本人は1953年から2年間陸軍に入隊している。

ヘレンを救出に向かう際、「陸軍はいつも海兵隊に助けを求める」と言いながらジャック・リーチャーに協力するキャッシュうの姿が何となく微笑ましい。ちなみに、ジャックがなかなかライフりを撃たないキャッシュに向かって「早く撃てガニー」と文句を垂れるシーンがあるが、「ガニー」とは海兵隊一等軍曹の略称のことである。ロバート・デュヴァルは82歳の高齢ながら、実に元気にキャッシュ役を楽しんでいたようだ。

ロバート・デュヴァルは82歳の高齢ながら、実に元気にキャッシュ役を楽しんでいたようだ

クライマックスでは無駄な殴り合いがあったり、ドイツの個性派監督ヴェルナー・ヘルツォークが怪演する悪党の黒幕が最後の最後で案外イタいのもご愛嬌だが、やはり、映画としての完成度の高さはさすがである。これは、脚本の良さなのか、「オレ様スター」トム・クルーズの成せる技なのか…、ただ、21世紀のテクノロジーには頼らず、銃とナイフとクルマといった20世紀的スタイルを貫き通した作風が、リアリティを生み出すことに成功したことは間違いない。トム・クルーズの新しいキャラクターシリーズの続編が待ち遠しいものだ。

無駄な殴り合い
黒幕が最後の最後で案外イタい

 

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