2013年度鑑賞作品
oblivion/オブリビオン
 
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トム・クルーズ主演の迫力ある映像美がスゴイSFアクション。

「オブリビオン」は、監督であるジョセフ・コシンスキーが自ら執筆し、ラディカル・コミックスより出版された同名のグラフィックノベルを原作として、監督デビュー作の斬新なビジュアルが話題になった「トロン:レガシー」に続く第2作目のSFアクション作品である。

オブリビオン

今回、主演のトム・クルーズは制作側には加わらず、役者だけに専念している。先日もジャパンプレミアのために来日し、精力的にプロモーションしていた姿が記憶に新しい。「笑っていいとも」のテレフォンショッキングにまでゲスト出演するとは、なかなかのものである。

この作品は、どこかで観たことのあるSF映画のような気もするし、いろんなモチーフが使用されている感もあるが、単にパクリではなく、映像もストーリーも細部までしっかり作り込まれており、不思議な魅力を持つ作品であることは間違いない。

不思議な魅力を持つ作品
不思議な魅力を持つ作品

西暦2077年。60年前に起きた異星人スカヴとの戦争により地球は荒廃し、人類の大半は、土星の衛星であるタイタンへの移住を余儀なくされていた。侵略者が、月を破壊して地球に天変地異を起こした後に攻めてきたという設定が新しい。そのため、地上には廃墟ではなく何もない不毛の大地が広がり、空には月の残骸が漂う。

そんな中、地球にたった2人残った元海兵隊司令官ジャック・ハーパーとヴィクトリア・オルセンは、上空から廃墟ではなく何もない不毛の大地が広がる地上を監視する平凡な日々を送っていた。指令本部から指示を受け、ドローンという球形の無人偵察機を管理する日々が続く。終末の地球の姿と、天と地の間に浮かぶジャックとヴィクトリアの無気質で洒落た住居の対比が夢幻的。そして、荒涼とした風景が彼の孤独を一層深める。

地上を監視する平凡な日々を送っていた
終末の地球の姿 終末の地球の姿
天と地の間に浮かぶジャックとヴィクトリアの無気質で洒落た住居 天と地の間に浮かぶジャックとヴィクトリアの無気質で洒落た住居
ヴィクトリア・オルセン

そして、彼の夢の中では廃墟となってしまったエンパイアステートビルが朽ちるように佇み、また、彼の夢の残滓となって微かに残るのは、まだ健在だったこのビルの展望台で謎の女性に愛を告白している記憶だった。繰り返し見る奇妙な夢と、植物が再生しはじめたことで地球への郷愁を静かに浮き彫りにしていく。

植物が再生しはじめたことで地球への郷愁を静かに浮き彫りにしていく

ある日、パトロールの途中でジャックは、墜落した宇宙船の残骸から夢の中に度々登場する謎の女性ジュリア・ルサコヴァを助け出す。そんな彼女はジャックの名前を口にする…。そんな時、2人は突然何者かに捕えられ、ジャックは連れて来られた先でマルコム・ビーチと名乗る男と出会う。自分以外にも地球で生きる者がいた事に驚くジャックに、マルコムは「ある真実」を告げる。そしてこれが、ジャック自身と地球の運命を大きく変えていく事になるのだった。

マルコム・ビーチと名乗る男と出会う
マルコム・ビーチと名乗る男と出会う

ジャックのアイデンティティーをも揺るがす怒涛の展開に、絶えず変化していくジャックの心情を表情で示すトム・クルーズの好演が素晴らしい。また、ジャックに絡む2人の女性も、対照的な愛の有り様を美しく体現。3人のアンサンブルが、愛と記憶の力を問う隠し味も切なく、多くの観客の胸に響く。

愛と記憶の力を問う隠し味も切なく、多くの観客の胸に響く
ジャックのアイデンティティーをも揺るがす怒涛の展開
ジャックの心情を表情で示すトム・クルーズの好演が素晴らしい

過去の亡霊のような廃虚と壮大な自然が同居する荒涼とした地球の風景。ジャックが乗るパトロール機や、エイリアンを攻撃するドローンの凝ったデザインとリアルな動き。また、ジャックとヴィクトリアが暮らすタワーの機能美。この作品で初めて使われたという高解像度のカメラの鮮やかなビジュアルが素晴らしい。遠隔操作で自在に動かせるカメラ「フライング・カム」も多用され、空を飛ぶドローンの目線などの、圧倒的な映像を生んでいる。

ジャックが乗るパトロール機
ジャックが乗るパトロール機

細部まで作り込まれた未来世界には、一方で、どこか夢のような不安定さと空虚さがつきまとう。ジャックとヴィクトリアの生活は世界から見捨てられたような孤独と、誰にも邪魔されない充足感と快適さが背中合わせになっているが2人の関係が崩れていくのと同じように世界そのものも崩壊していくのが実にスリリング。

劇中、アメリカの国民的画家で、荒涼とした大地の中で生きる「アメリカの田舎の孤独」を描いた画家アンドリュー・ワイエスの絵画「クリスティーナの世界」が何度も登場し、象徴的な意味を伝えてくる。

画家アンドリュー・ワイエスの絵画「クリスティーナの世界」

彼女の名前はクリスティーナ。アメリカ最北端、メーン州の漁村クーシングで生まれ、この寒い土地で一生を過ごした。料理と、9月には初霜が降りるこの場所でストーブにマキを入れ続けることだけが、彼女の仕事であった。それでもクリスティーナは、小さいことに喜びを感じ、逞しく、そして慎ましやかに生きた女性。この時も、近くにある家族の墓地へ祈りに行った後、丘の上にある自宅に戻る途中であった。家までどのくらいかかるのだろうか…。

そんな彼女の家に毎年夏になると避暑のためにやってくる画家がアンドリュー・ワイエスだった。彼はクリスティーナの家の2階をアトリエとして借り、時々窓から、丘を昇り降りする彼女を見ていた。足の替わりに指先で、しっかりと大地を踏みしめている、懸命に生きる彼女の姿を。そして、描かれた作品が「クリスティーナの世界」。

大都会の華やかな雰囲気の中の孤独も寂しいが、見渡す限り大草原の中での孤独はもっと寂しい。しかし、その中でしっかりと生きれば、本当に怖いものは何もないのかも知れない。それが、クリスティーナだ。彼女は車椅子の寄付を最後まで拒み、大地を這って生き抜いた。クリスティーナの一途さと、生まれ持ったものを素直に受け入れ、必死に生きる姿に多くの者が勇気をもらったことだろう。

壮麗なCGで世界を魅了した映画「トロン:レガシー」のコシンスキー監督が、今回はあえてブルースクリーンを極力使用せず、7メーター以上ある実物大の「バブルシップ」を操作性までこだわって制作、また、物語の舞台となる高度1000メートルの「スカイタワー」から見える風景は、3台の4Kデジタルカメラでハワイのハレアカラ火山を実際に空、雲、日の出、夕陽、星空を撮影し、セットの周囲を360°スクリーンで覆うように撮影 する異常なまでのこだわりを見せた。

3台の4Kデジタルカメラでハワイのハレアカラ火山を実際に空、雲、日の出、夕陽、星空を撮影

ジャックがパトロールに使用する航空機「バブルシップ」は、マンハッタン近代美術館で展示されていたヘリコプター「Bell47」をモデルに、実物大のものを制作した。これは、NASAのエンジニアを雇用してデザインされたものだ。

NASAのエンジニアを雇用してデザインされた

自動車メーカーなどのコンセプトモデル制作で知られる「Wild Factory」に依頼したその姿は、操縦桿やコンソール、フットペダルに至るまでリアル。実用性まで想定され作りこまれ、トム・クルーズが「Oh my God, It's beautiful」と思わず口にするほど美しいものに仕上がった。

 
Oblivion - The Bubbleship

そして、地上1000メートルの監視塔「スカイタワー」から見える雄大な上空の風景は「本物の空」で、実際に作られた美しいインテリアから構成されている。360°の壁面スクリーンでセットを囲み、そこにハイビジョンの9倍の画素数を持つ4K映像を投影、日の出、夕陽、星空、移り変わる上空の空をリアルに再現した。

360°の壁面スクリーンでセットを囲み、そこにハイビジョンの9倍の画素数を持つ4K映像を投影、日の出、夕陽、星空、移り変わる上空の空をリアルに再現

 
Oblivion - The Skytower

恐ろしいほどリアリティを追求しただけあって、映像の美しさや迫力は群を抜いている。また、主演のトム・クルーズ以外にも、謎の女性ジュリア演じるオルガ・キュリレンコの凛々しい美しさやモーガン・フリーマンの存在感など共演者も魅力的だ。ちなみに、ウクライナ出身のオルガ・キュリレンコは、16歳の時にフランスに渡りモデルとしてキャリアを始め、数々のコレクションやファッション雑誌の表紙を飾り、トップモデルとしての地位を築いた。その後、2005年に映画デビューし、2008年公開「007/慰めの報酬」のカミーユ役でダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドとの共演で話題になった。ウクライナ語、ロシア語、英語、フランス語、スペイン語、イタリア語の6か国語を操る才女である。

オルガ・キュリレンコ

様々な過去のSF映画を継接ぎしたような展開や現代社会でも論争されている倫理問題も絡んでいるが、最後は自我を捨てた愛という不思議にロマンチックなラストに至る。ある意味、東洋的な結末に心を動かされた観客も多いかも知れない。

「オブリビオン」の圧倒的なヴィジュアルは、大きなスクリーンで鑑賞しなければ意味がない。細部まで緻密に作られた映像はすべてが意味のあるものだけに、その意味が理解できれば感動を覚えること間違いない。

 
Oblivion - A Look Inside
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