2013年度鑑賞作品
エンド・オブ・ホワイトハウス
 
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必ず、救出する
取り戻せるのか?タイムリミットは7時間

この夏はホワイトハウスが占拠される映画が2作品公開される。現在公開中の「エンド・オブ・ホワイトハウス」は、アントワーン・フークア監督作品のホワイトハウスが北朝鮮のテロリストに占拠され、合衆国大統領が人質に取られたという設定で描かれるサスペンスアクション映画。

そして、8月公開予定の「ホワイトハウス・ダウン」は、以前「インデペンデス・デイ」でホワイトハウスを木端微塵にした経歴を持つローランド・エメリッヒ監督が、再度ホワイトハウスを派手に壊す作品。互いが先に公開出来るように製作を急いだが、全米公開が3月になった「エンド・オブ・ホワイトハウス」が、撮影開始から僅か8か月後の公開という急ピッチ作業で、「ホワイトハウス・ダウン」より早く公開が出来たという。かなり急いで製作した結果、全米2位スタートという少々残念は結果にはなったが、素晴らしい作品であることは間違いない。3月22日に全米公開され、「ダイ・ハード/ラスト・デイ」を凌ぐオープニング成績を残し、2013年公開のアクション映画としては週末興行収入第1位の大ヒットスタートを記録した。

2013年公開のアクション映画としては週末興行収入第1位の大ヒットスタートを記録した

ホワイトハウスは、アメリカの200年を超す歴史上、9・11テロの際も攻撃を免れ、実際にテロリストに制圧されたことも破壊されたこともない鉄壁の要塞。SWATの狙撃手が24時間態勢で警戒の目を光らせ、地対空ミサイルまで配備されているという。

チョイ昔までのハリウッド映画の悪役は、ソ連が代表選手であった。しかし、連邦崩壊で敵がいなくなったアメリカはそれをエイリアンに見出した。しばらくは宇宙から地球、いや、アメリカを潰しに何匹かやってきた後、新たな敵を21世紀に発見した。それが中東。だが、それもフセインやビン・ラディンが始末された今、取って代わって現れたのが北朝鮮である。ハリウッド映画はいつも「敵」を作って成長するようだ。

ハリウッド映画はいつも「敵」を作って成長する

北朝鮮の工作員がホワイトハウスに侵入して、アメリカを、そして世界中を手中に収めようとする、実にタイムリーな映画である。ま、北朝鮮のテロリストという設定で、ある種の逃げ道を確保しているところは頭のイイ手法であるが、かなり現実的なキナ臭い雰囲気は充分に伝わってくる。

「エンド・オブ・ホワイトハウス」で、北朝鮮のテロリストのボスであるカンを演じたのは韓国系アメリカ人の俳優リック・ユーン。1999年に「ヒマラヤ杉に降る雪」で工藤夕貴の夫を演じ、2002年に007シリーズの「ダイ・アナザー・デイ」に北朝鮮の軍人役としてジェームズ・ボンドと対決している。ちなみに、リック・ユーンは19歳のときにはテコンドーでオリンピック出場資格を得たこともあるアスリートでもある。この作品では、容赦のない残酷なテロリストを熱演し、不気味な存在感を発揮している。

リック・ユーン
「ダイ・アナザー・デイ」に北朝鮮の軍人役としてジェームズ・ボンドと対決

世界で最も安全だったはずのホワイトハウスを舞台に、かなりのリアル感と臨場感をもって描かれる迫力の奇襲と攻防劇。前代未聞の危機は、かつてなかった「ホワイトハウス陥落」というテーマを真正面からダイナミックに描いている。けっこう大胆な殺戮シーンがド迫力で迫ってくる。奇襲から占領に至るまでの13分間のリアルタイムな映像はかなり衝撃的だ。

製作チームは綿密なリサーチを繰り返し、元シークレットサービス、FBI、CIA、法執行機関の当局者たちからトップシークレットを見事入手した。その中で判明した最大のポイントは、「軍の救援が到着するまでに15分かかる」という事実だった。

「軍の救援が到着するまでに15分かかる」という事実だった

そこから割り出されたのが、「13分で陥落し、15分で要塞と化す」ための攻撃法のタイムライン。空からの奇襲によって幕を開け、陸上では多数のテロリストが自らの命を投げうって突撃を開始。平和そのもののワシントンの光景は一瞬にして戦争が始まったかのような衝撃を伴う迫力とパワフルな臨場感で観客を圧倒する。まさに、地獄絵図さながらである。

まさに、地獄絵図さながらである

突如、1機の輸送機「ロッキードC-130ハーキュリーズ」がワシントン上空に侵入し、市街をガトリング砲で無差別射撃。市民を惨殺しながらホワイトハウス上空に到達し、集中砲火。屋外に配備されたSPたちはなす術もなくなぎ倒されていく。輸送機による上空からの攻撃で手薄になったホワイトハウス前では、観光客を装った2人のテロリストがホワイトハウスのフェンスに近づき、背負っていた爆弾で自爆。爆風でフェンスは壊され、市街に紛れていたテロリストたちが一斉に敷地内に進撃する。

1機の輸送機「ロッキードC-130ハーキュリーズ」がワシントン上空に侵入
爆風でフェンスは壊され、市街に紛れていたテロリストたちが一斉に敷地内に進撃 爆風でフェンスは壊され、市街に紛れていたテロリストたちが一斉に敷地内に進撃

ワシントンD.C.の中心部に位置する、ナショナル・モールの中心にそびえ立つ約170mの巨大な白色のオベリスクであるワシントン記念塔の一部が輸送機の主翼と接触し崩壊するシーンは、何となく9・11を彷彿させる。

ワシントン記念塔の一部が輸送機の主翼と接触し崩壊
ワシントン記念塔の一部が輸送機の主翼と接触し崩壊

この日、大統領との会談のため韓国の首相がホワイトハウスを訪れていたが、この危機状態に「バンカー」と呼ばれる核シェルターを兼ねた地下の危機管理センターに避難する。しかし、韓国の首相に付き添い、ホワイトハウス内にいた警備責任者ら韓国側のスタッフは、実は北朝鮮のテロリスト。ホワイトハウスの警備メンバーを全滅させ、大統領や政府高官を人質に取る。そして、ペンタゴンに向けてホワイトハウス殲滅の宣言し、アメリカ政府へ驚愕の要求を突き付ける。

大統領との会談のため韓国の首相がホワイトハウスを訪れていた
大統領との会談のため韓国の首相がホワイトハウスを訪れていた

この事件から遡る事約2年前のクリスマス。雪の降り積もる米国海軍サーモント支援施設の通称キャンプ・デービッド。大統領付きのシークレットサービスのリーダーであるマイク・バニングは、アッシャー大統領とその家族の外出に付き添っていた。向かう道中、先導車が事故を起こし、大統領夫妻が乗る車が欄干に激突、橋から半分車体が乗り出す。宙吊り状態から必死に救い出そうとするバニングだが、どうしても2人を助け出す余裕が無い。シークレットサービスとしての職務遂行から、妻を必死に助けようとする大統領を無理やり車から引き摺り出した瞬間、車はバランスを崩し、暗い橋の下へと落ちていった。

クリスマスを楽しむため外出する大統領夫妻
車はバランスを崩し、暗い橋の下へと落ちていった

目の前で妻を亡くした大統領の悲痛な叫び。母を亡くした息子の嘆き。そして、それをじっと見つめるシークレットサービスのマイク・バニング。

その後、大統領のシークレットサービスの任を解かれたマイク・バニングは閑職に腐っていた。ファーストレディの命を救えなかった彼に直接のミスはないのだが、友人でもある大統領のアッシャーは彼が身近にいるとどうしても事故の件が脳裏に過ることへの処置であることは、当のマイク・バニングもよく理解していた。しかし、現場に復帰したいという心の声は日増しに募るばかりだ。

現場に復帰したいという心の声は日増しに募るばかり

マイク・バニングを演じるジェラルド・バトラーは、今回は製作陣の1人でもある。彼は名門グラスゴー大学で法律を学び、最優秀の成績で卒業。エリザベス女王のマネージメントを扱う弁護士事務所に就職した。アルコール依存症になるほど苦悩したが、事務所の同僚に「もっとやりたいことがあるんだろう」と言われ、俳優を志すことを決意。弁護士としてのキャリアを失い、金銭面で苦しくなったこともあったが、俳優として新たに踏み出せたことに決して後悔はしなかったと言う。

ロンドンのコーヒーショップでスティーヴン・バーコフと偶然出会い、バーコフの次回作「コリオレイナス」の舞台に立つチャンスを得る。「コリオレイナス」や舞台版「トレイン・スポッティング」の出演を経て、1997年に「Queen Victoria 至上の恋」で映画デビュー。

その後、20作程度の映画に出演し、評価が高まった末に、ジョエル・シュマッカー監督のアンドリュー・ロイド・ウェバー版「オペラ座の怪人」において、主役ファントムの座を射止めた。これは演技に加え最大の魅力であるウェバーの音楽を高度な歌唱力で歌い上げなければならないという、大変難しい役。ヴォーカルの正式なレッスンを受けたことはなかったが、2003年1月から2004年6月まで、1日に数時間の特訓によりこの大役を務め上げ、その名を世界的に知らしめることとなった。2007年公開の「300(スリーハンドレッド)」では、撮影開始3カ月前よりトレーナーのもとで、1日4時間の訓練をして役作りのトレーニングを積んで、見事な彫刻のような肉体を得た。彼の肉体美にファンになった女性も多いという。ちなみに、彼はスコティッシュ・プレミアリーグの「セルティックFC」のサポーターであり、以前に「中村俊輔はぼくらの英雄だよ」とコメントしていた。

300(スリーハンドレッド)

ホワイトハウスが謎の集団に襲われている異様な光景を目前で見たマイク・バニングは、現場に急いだ。命からがらホワイトハウス内に辿り着いたマイク・バニングの目に飛び込んできたのは、職員全員が惨殺されている壮絶な光景であった。何があったのかを知るために大統領の執務室で緊急用の通信機を入手し、ペンタゴンの対策司令部へ連絡。そこでは、モーガン・フリーマン演じる下院議長のトランブルが、大統領代行としてテロリストからとんでもない要求を突き付けられていた。

ホワイトハウスが謎の集団に襲われている異様な光景を目前で見たマイク・バニングは、現場に急いだ

カンの要求は、韓国から米軍の完全撤退と日本海や太平洋の第七艦隊の撤収だ。この要求を受け入れると韓国はあっという間に陥落してしまう。テロリストのカンはスクリーンを見守るペンタゴンの対策司令部の前で韓国首相を射殺し、本気度を見せつける。

また、カンは、大統領の他2名しか知らされていない核の自爆コードを強引な手段で手に入れようとする。それは、核の無力化の裏に潜む恐るべき作戦を実施しようとするカンの思惑があった。そして、大統領からそのコードを入手するため、ホワイトハウス内にいる息子の拉致を企てていたが、なかなか発見できずにいた。

、カンは、大統領の他2名しか知らされていない核の自爆コードを強引な手段で手に入れようとする

対策司令部ではマイク・バニングに大統領救出を任せるかどうかが問題になるが、これまでの実績を信じ、バニングの腕にアメリカを任せようと判断したトランブルと、ファーストレディを見殺しにした彼をまったく信じず、SEALSの突入を勧めるロバート・ファスター演じるグレッグ将軍の対立構造も物語に幅を持たせている。

これまでの実績を信じ、バニングの腕にアメリカを任せようと判断したトランブルと、ファーストレディを見殺しにした彼をまったく信じず、SEALSの突入を勧めるロバート・ファスター演じるグレッグ将軍の対立構造も物語に幅を持たせている

ただ、自分の置かれた状況を把握したマイク・バニングは、シークレットサービス時代にホワイトハウスに隠さされた様々な抜け道や隠し部屋の情報を熟知しており、運よく大統領の息子を無事に救出することに成功。2年前には、一瞬にして仕事だけでなく、希望や気力をも失ったバニングが、今度こそ友である大統領を救い、信頼と尊厳を取り戻すため、自身の命を賭して孤立無援の戦いに挑む。「必ず、救出する」の言葉に、彼の強い意志を感じる。

運よく大統領の息子を無事に救出することに成功
運よく大統領の息子を無事に救出することに成功
信頼と尊厳を取り戻すため、自身の命を賭して孤立無援の戦いに挑む。

そこからは、まさにホワイトハウス版の「ダイハード」である。孤軍奮闘のマイク・バニングとテロリストたちとの壮絶なバトルが繰り広げられる。途中、将軍の独断で送り込まれたSEALSの空中からの突入も、そのことも想定内のカンに返り討ちにされる始末。残された手段はもはやマイク・バニングに頼るしかない。

この主人公のマイク・バニングという男、今までのヒーローとは少々違い、殺しに容赦なく、殺し方もけっこう残虐だったりする。ま、敵対するテロリストも銃弾に倒れている相手に止めの銃弾を浴びせていくなど、残虐さのリアリティは半端ない。なかでも女性国防長官のいたぶられ方は無惨のひと言。 女・子供に容赦ないのが、この作品から漂う異様なまでの緊迫感とリアリティだ。豪快な破壊スペクタクルよりも、細部に表現される生々しさが、監督のこだわりの演出なのかも知れない。アクションには定評がある「トレーニング デイ」「ザ・シューター/極大射程」のアントワーン・フークワ監督だけに、テンポよく小気味のいいアクションが展開される。時間がなかったのか、無駄な情緒は必要ないという潔さか、上映時間の2時間が息つく暇も与えずアッという間に過ぎていく。

なかでも女性国防長官のいたぶられ方は無惨のひと言
女・子供に容赦ないのが、この作品から漂う異様なまでの緊迫感とリアリティ

なお、ベンジャミン・アッシャー大統領には、2000年公開の「エリン・ブロコビッチ」でジュリア・ロバーツの恋人役を演じて注目を集め、2006年には「ピープル」誌による「世界で最も美しい50人」に選出され、2008年公開の「ダークナイト」ではハービー・デント(トゥーフェイス)を演じたアーロン・エッカートが、苦悩するプレジデントを好演している。

アーロン・エッカートが、苦悩するプレジデントを好演

大勢の国民を犠牲にした9.11テロのような派手なスタイルではなく、核作動のコードを知るアメリカ大統領とその側近を制圧さえすれば、世界を手中にしたも同然という作戦は空恐ろしさがある。まるでフィクションとも思えない現況の世界情勢を鑑みれば、かなりの不気味さが漂う。確かに核は諸刃の剣である。核の様々な問題は、人類がこの世から滅びるまで永遠に思い煩う事だろう。

ホワイトハウス陥落というショッキングな映像と、命がけで危機を救うヒーローという対比の構図は鮮やかであり、緊迫感に溢れている。現実とあまりにリンクしているがゆえに、ド派手な展開も絵空事とは思えない「エンド・オブ・ホワイトハウス」。ハラハラドキドキである。

「エンド・オブ・ホワイトハウス」

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