2013年度鑑賞作品
ガリレオ/真夏の方程式
 
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これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは。

テレビドラマ「ガリレオ」シリーズの劇場版第2弾「真夏の方程式」は、6月29日に全国415スクリーンで公開され、土日2日間で動員36万3,451人、興収4億6,499万2,250円を記録した。前作の劇場版「容疑者Xの献身」は、2008年10月4日に公開されたので、5年ぶりという事になる。また、テレビドラマも先日第2シリーズが終了したばかり。

劇場版第2弾「真夏の方程式」

第2シリーズでは湯川准教授の相手役が柴咲コウから吉高由里子に交代し、「真夏の方程式」にも登場する。ただ、単なる補佐役と言う感が否めず、目立った活躍がないのは残念だが仕方ないことと割り切ってもらう。

帝都大学理工学部物理学科准教授の湯川学は、頭脳明晰、スポーツ万能で容姿端麗。女子学生に人気があり、その講義の最前列は常に女子学生で埋まっている。学生時代の同期である草薙や研究室の学生は、彼のことを「変人ガリレオ」と呼ぶ。「全ての事象には必ず理由がある」との信念を持ち、科学的に可能性のある事象を頭ごなしに否定することを好まず、「ありえない」という発言に対しては常に否定的な姿勢を示す。そのためオカルト・心霊現象の類は一切信じないが、それに関する知識は専門家並みに豊富。スカッシュやボルダリングなどのスポーツや、趣味で行っている料理も数学的・理論的に解釈しようとする理屈屋でもある。

帝都大学理工学部物理学科准教授の湯川学は、頭脳明晰、スポーツ万能で容姿端麗

持ち込まれた事件に興味を示した時の口癖は、「実に面白い」「実に興味深い」。また、未解明な事象に遭遇した際には突如笑い出し、「さっぱり分からない」と言う。自分の中で全ての謎が氷解した際には、頭の中を整理する癖としてチョーク・石など目の前にある道具を筆記具として使い、地面やショーケース等、所構わずトリックの証明をするための方程式を記述する実に困った癖がある。

なお、この式は物理学などの方程式であり、それらは事件の主題に関連したものである。ただし、実際には公式などの羅列に留まっているため解は求められないことが多い。記述後はフレミングの左手の法則を模した左手を顔に当てるキメポーズを取る。

フレミングの左手の法則を模した左手を顔に当てるキメポーズを取る

テレビドラマでは水戸黄門の印籠のようにこれらの一連の行動がお約束なのだが、劇場版の2作品ではこれらの「ガリレオ」らしさが一切省かれており、ドラマファンには少々物足りない感が否めない。

そして、音楽。テレビドラマのテーマ曲である「VS.〜知覚と快楽の螺旋〜」の印象的なメロディが前作の「容疑者Xの献身」では使用されておらず(記憶が曖昧なので確実とは言えないのだが…)、「ガリレオ」らしさがスポイルされていたように感じた。今回は最後にテーマ曲が流れるので、テレビの「ガリレオ」ファンの観客の多くは、「そうそう、やはりこれがなくっちゃね」と思ったに違いない。

また、湯川は「非論理的」との理由で子供嫌いであり、子供と会話をすることさえ忌み嫌い、子供と見つめ合っただけで蕁麻疹を発症するという異常体質。子供が走り寄って来た際には、「近づくな!」と大声で遮ってしまうほどオトナ気ない性格がオチャメ。

しかし、今回の作品では、湯川がこれまで苦手としていた少年との交流が物語の軸になっている。海底鉱物資源開発の説明会にアドバイザーとして出席するために玻璃ヶ浦へ向かう電車の中で、両親の都合で1人ぼっちで親戚が経営する旅館で過ごすことになった小学5年生の少年の恭平と出会う湯川。

、湯川がこれまで苦手としていた少年との交流が物語の軸になっている

少年と乗客の老人との一悶着を科学的に解決した湯川が宿泊する「緑岩荘」は、偶然にも恭平の叔父夫妻が経営する宿だった。また、経営者である川畑夫妻の一人娘の成実は海底資源の開発計画に揺れる美しい海辺の町、玻璃ヶ浦開発計画の反対運動のリーダー的存在。

川畑夫妻の一人娘の成実は海底資源の開発計画に揺れる美しい海辺の町、玻璃ヶ浦開発計画の反対運動のリーダー的存在

クールな湯川に興味津々の恭平は、湯川につきまとう。「理科は嫌いなんだよね」発言にはシカトの湯川だが、「理科が何の役に立つんだよ」にはカチンときた湯川。そして、船酔いし、泳げないのでキレイな玻璃ヶ浦の海の中を見られないという恭平のため、陸でいながら海の中を見ることのできる「科学の力」を実証するために実に面白い実験を開始する。ムキになり実験に夢中になっている湯川の姿が実に微笑ましい。

「科学の力」を実証するために実に面白い実験を開始する
ムキになり実験に夢中になっている湯川の姿が実に微笑ましい

子供嫌いなはずの湯川だが、なぜか恭平とはウマが合い、蕁麻疹も発症しない。科学の持つ有益さと楽しさを教える湯川だが、しかし、それは結果として、恭平少年に科学の恐ろしさをも学ばせることになる。

そして、1つの事件が起こる。「緑岩荘」に宿泊していた客が堤防下の岩場で変死体として発見されたのだ。酔っ払いが散歩に出て、足を踏み外して落ちたのだろうと考える町の警察だが、死体の身元が元捜査一課の刑事で、死亡原因が一酸化炭素中毒ということが判明したからさぁ大変。

「緑岩荘」の宿泊者名簿に偶然にも湯川の名前を見つけた警視庁の草薙は、早速、玻璃ヶ浦に岸谷を送り込む。そして、元刑事の不審死から16年前の元ホステス殺人事件との関係が浮かび上がってくる。今回の湯川は、警察よりも先に事件に遭遇することとなり、自らが進んで真相を究明していく様子が描かれ、これまでのシリーズ作品とは異なる空気感を有している。

「緑岩荘」の宿泊者名簿に偶然にも湯川の名前を見つけた警視庁の草薙は、早速、玻璃ヶ浦に岸谷を送り込む
「緑岩荘」の宿泊者名簿に偶然にも湯川の名前を見つけた警視庁の草薙は、早速、玻璃ヶ浦に岸谷を送り込む

複雑に絡み合う因縁。重ねられた嘘と罪。そして、秘密を抱える家族と深まりゆく謎。また、何も知らずに事件に関わってしまう無垢な少年。その哀しき方程式の解明に挑戦する湯川が辿り着く事実とは…。ま、大半の観客はその謎解きに「ほぉ〜!」というより、「やっぱり…」という感覚に近いかも知れないが、犯人探しやトリックにはあまり焦点を当てず、人間ドラマの比重が高い。計算式では到底解き明かせない人間の心の闇やラビリンス、そして、愛情と自己犠牲に物理的なアプローチが有効かどうかが描かれる。

複雑に絡み合う因縁。重ねられた嘘と罪。そして、秘密を抱える家族と深まりゆく謎

この作品では「開発か環境保護」で揺れる現実社会を投影した興味深い設定が盛り込まれており、そこで住民、とりわけ環境保護活動に不自然なほどのめり込む旅館の娘の成実に、科学技術と自然がどう共存してきたかを解き、開発かそれとも環境保全かという「100」か「0」かで対立するのは無意味で、まず知ることが大切で、「すべてを知った上で結論を出せ」と諭す。理論派の湯川らしい持論だが、これが、最終的に、殺人事件の謎を解いた後の人々への問いかけに繋がっていく。

つまり、「すべてを知った上で、自分の進むべき道を決めるべきだ」という価値観と人生観が、科学の方程式ではなく、この作品が伝えたい愛する者を守るための「真夏の方程式」の神髄である。

「すべてを知った上で結論を出せ」と諭す

刑事や探偵とは違い、科学者として容疑者に自分の仮説を唱えるクライマックスでは、相手の気持ちを探ろうとか、事件を解決しようということには興味を示さない。「少年に最後に何を伝えますか」という湯川の言葉には、淡々とした科学者としての本質が見受けられる。

余談ながら、刑法には「間接正犯」という理論があり、これは自分が直接手を下さなくとも、事情のわからない第三者を道具として利用し、その道具に犯行を実行させた場合、第三者を利用した者が「間接正犯」として、犯罪の責任を負うというものだが、そんな刑法理論を知っていれば、この作品の理解がより深まるはずだ。

「真夏の方程式」には賛否両論があるのも事実。トリックが雑とか、登場人物の性格設定に無理があるとか、確かにツッコミどころは多々あるが、これは人気の裏返し。あまり「粗捜し」せず、ガリレオの世界観を楽しみたいものだ。恭平にペットボトルロケットで「浣腸」される杏ちゃんにニヤリとし、簡易宿泊街で聞き込みする吉高がドサクサ紛れにお尻を撫でられる女優弄りの演出には心の中でちょこっと拍手。

夏を彩るアイテムが随所に散りばめられているが、どことなく「ほろ苦く」「切ない」余韻を残す物語に仕上がっている。ただ、湯川が数式を書いて推理を整理するシーンや、「実に面白い」といったキメ台詞がないといったドラマのパターンを踏襲しない展開が、どうしても物足りなさを感じてしまうが、福山雅治ファンにはたまらない魅力的な作品であることは間違いない。

福山雅治ファンにはたまらない魅力的な作品であることは間違いない

岸壁から200m先の海へとペットボトルロケットを飛ばし海の中を見る実験シーンは、実験に夢中になっている湯川同様、観客もワクワクすること必至。テレビドラマとはちょっと違う湯川学の勇姿をスクリーンで堪能したい。

「真夏の方程式」実に面白い。

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