2013年度鑑賞作品
ワールド・ウォーZ
 
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こんなゾンビ見たことない・
まさに、稲妻ゾンビ!

1962年に「奇跡の人」のアン・サリヴァン役でアカデミー主演女優賞を受賞し、「卒業」のミセス・ロビンソンでは、当時の年頃の男の子に熟女の魅力と怖さを教えたアン・バンクロフトを母に持ち、「コメディ映画の巨匠」として知られるメル・ブルックス監督が父という、ある意味サラブレッドの息子である作家マックス・ブルックスが、2006年に発表した終末ホラー小説「WORLD WAR Z」を映画化したのが「ワールド・ウォーZ」。

ワールド・ウォーZ

ちなみに、父親のメル・ブルックス監督は、アメリカ合衆国の文化や芸能に対する長年の貢献が称えられ、2009年にケネディ・センター名誉賞を受賞。2010年にはハリウッド・ウォーク・オブ・フェームの星となり、2012年にはデヴィッド・リンチとともにAFI名誉博士号を授与される。また、2013年にはAFI生涯功労賞を受賞した。そして、アカデミー賞、エミー賞、グラミー賞、トニー賞の4賞すべてを受賞したことがある数少ない人物の1人である。

マックス・ブルックス原作の「WORLD WAR Z」は、レオナルド・ディカプリオの製作会社「アッピアン・ウェイ」とブラッド・ピットの「プランBエンターテインメント」が競い合い、ブラピが映画権を獲得したという曰くある作品。

ブラピが映画権を獲得

この作品では主演以外に製作にも名を連ねている。原作は、ゾンビとの戦いを経験した人々にインタビューして書かれたオーラル・ヒストリーという設定になっており、登場人物は軍人、政治家から宇宙飛行士、主婦までさまざま。ゾンビの発生源である中国をはじめ、アメリカ、ロシア、日本、ドイツなど世界中が舞台として登場する。また、ゾンビとの戦いだけではなく、防衛に不向きなヨルダン川西岸を放棄したイスラエルで宗教右派と政府間の内戦が勃発したり、パキスタンとイランが難民問題から核戦争に発展するなど、人間同士の争いも描かれている。

原作のまま映画化するのはかなり難しいようなので、ブラピ演じる元国連調査官ジェリーがゾンビの蔓延を防ごうと果敢に立ち向かう姿をメインに作られている。監督のマーク・フォースターは、黒人女性と白人男性の交流と人種への偏見問題も孕んだ恋愛をシビアに描いたハリー・ベリー主演の「チョコレー」や「007/慰めの報酬」などで知られるドイツ出身の映画監督。従来のようなゾンビ映画とは一線を画すゾンビ作品に仕上げている。ゾンビものやスプラッターものが苦手という人にも安心して観ることのできるゾンビ映画と言ってもいい。

ゾンビものやスプラッターものが苦手という人にも安心して観ることのできるゾンビ映画と言ってもいい

この夏の映画では多分一番多くの人間が死んでしまう映画だが、残虐さや出血量が極めて低い。家族連れやカップルにも優しい作りで安心で安全なゾンビ映画ってな表現も少々オカシイものだが、その手の映画のキモさを極力排除した作風は、製作の段階でR指定にはしないことを宣言した通り、子供たちも安心して観ることができる映画なのである。

では、怖くないゾンビ映画ってどうなのよ…という、怖いもの見たさの観客の懸念も吹っ飛ばすような緊迫感溢れる展開が待っている。超弩級の迫力全開の映像から伝わるスケール感の凄さと暴徒と化したゾンビ集団の恐怖が胸をバクバクさせること間違いない。

暴徒と化したゾンビ集団の恐怖が胸をバクバクさせること間違いない

原作との違いの1つは、この作品に登場するゾンビは俊敏。まさに、稲妻ゾンビ。マイケル・ジャクソンの「スリラー」に登場するユラユラと動くゾンビも確かに気味悪いが、ダ〜って走りくるゾンビはそりゃ怖いってものじゃない。ま、怖いって感じるより前に襲われてしまう。

そして、このスピードは感染後僅かに12秒でゾンビ化が完了するという素早さ。とにかく増殖のスピードが凄まじく、過去の同ジャンルの作品と比べると集団としての脅威が顕著で、無数のゾンビの集団がまるで1つの群体生物の様に塊となって襲いかかってくるビジュアルは過去に観た事のない凄まじさ。

塊となって襲いかかってくるビジュアルは過去に観た事のない凄まじさ

特にイスラエルの都市を囲む壁にゾンビが折り重なる様に積み上がり、遂には津波が防波堤を押し潰すかの如く壁を超えて押し寄せ、あっという間に市内が阿鼻叫喚の地獄となるシークエンスは圧巻。個々のゾンビに襲われそうになる恐怖ではなく、天変地異に見舞われたかのような圧倒的な絶望感が漂う感覚に近い。このシーンでは実写がゼロで全てがCG映像と聞き、納得と同時に質の高さに驚きだ。

スラエルの都市を囲む壁にゾンビが折り重なる様に積み上がり、遂には津波が防波堤を押し潰すかの如く壁を超えて押し寄せ、あっという間に市内が阿鼻叫喚の地獄となる

オープニングで、鳥インフルエンザ、鯨の大量死などなど世界的異変が伝えられ、フィラデルフィアでもウィルスの報道はされていたが、市民にとっては対岸の火事。普段通りの朝を迎えていた。元国連職員ジェリー・レイン一家も極めて平穏な朝だった。

娘2人を学校に送るため、妻のカリンと4人で車に乗り込む。道路の渋滞はいつもと同じだが、何かが違う様子。上空では3台のヘリが旋回している。その瞬間、トレーラーが他の車を蹴散らしながら爆走してきた。その後方を見ると生気と正気を失った集団が群を成して猛烈な勢いで押し寄せてくる。彼らはすれ違う人間に噛みつき、噛まれた者はまた他の人間を襲う。

トレーラーが他の車を蹴散らしながら爆走
逃げ惑う市民

そのただならぬ状態から家族を守ろうと、妻子を連れて逃げるジェリー。その後、国連事務次長ティエリーからの連絡で、彼は人間を凶暴化させる未知のウイルスが猛スピードかつ世界的規模で感染拡大しているのを知る。この地球規模のパンデミックを食い止めることを依頼されたジェリーは、国連捜査官の時代に国際紛争や危機回避を専門としていたエリート。交換条件としてジェリーの家族を安全な空母に輸送するという。

ただならぬ状態から家族を守ろうと、妻子を連れて逃げるジェリー
ただならぬ状態から家族を守ろうと、妻子を連れて逃げるジェリー 交換条件としてジェリーの家族を安全な空母に輸送

こんな状況下で家族と離れ離れになることには抵抗があったが、情報収集のため出発することを決意するジェリー。そして、若きウイルス学者や特殊部隊員らとともに、最初にゾンビの情報を送ってきた韓国の米軍基地へと飛び立った。

この作品では、フィラデルフィア、韓国の米軍基地、イスラエル、そして英国のWHO施設と、大きく4つのステージに分けられ、それぞれに見せ場が設定されており、冒頭から一気呵成に展開するパニック感は見事な演出である。

また、ジェリーはスーパーヒーローではなく、火器や格闘技の専門家でもない。つまり、イーサン・ハントやジェイソン・ボーンやジェームズ・ボンドのような超人的アクションや荒唐無稽な大活躍からは縁遠い。ただ、彼には観察力と注意力がある。医師は感染源の究明に努め、軍人はゾンビ殲滅に燃えるのだが、ジェリーはゾンビのある性癖に着目し、それをヒントに解決策へと導いていく。けっこう知的で冷静なキャラクター。ただ、自分が乗っていた飛行機にゾンビが乗り込んでくると手榴弾で飛行機に穴をあけ、ゾンビたちを空中に放り出すという荒業を披露したり、腹部に破片が刺さり重傷を負おうがけっこうへっちゃらという超人ぶりはご愛嬌かも。

ジェリーはゾンビのある性癖に着目し、それをヒントに解決策へと導いていく

派手なアクションこそ少ないが、最終的に命がけで人類を救う行動を取るブラピの姿が凛々しく、ちゃんとヒーローとしての帳尻合わせをしているところは微笑ましい。

しかし、最大最強の見せ場であるイスラエルでの巨大防護壁に群がるゾンビ集団や航空機パニックのシークエンスという、ド迫力スペクタクルな映像が続いた後での肝心のクライマックスでは、WHOの施設を舞台としたオーソドックスなゾンビ映画風の映像が少々物足さを感じてしまう。ま、音に反応するゾンビたちに気付かれずに行動するという緊張感もあり、別にクライマックスの仕上がりが悪いという訳ではない。ただ、それまでのスケールと比べるとギャップが大きいというだけである。

音に反応するゾンビたちに気付かれずに行動するという緊張感
最終的に命がけで人類を救う行動を取るブラピの姿が凛々しい 一か八かの賭け

巷の噂では、本来のクライマックスシーンはロシアに設定されており、実際に撮影も行われたらしい。ところが、そこでのゾンビ集団との戦いが、余りにも血みどろの様相になってしまったために、レイティングへの影響を考慮し、全面カットしてゼロから撮り直したという。当然予算もカツカツになり、完成した映画では明らかにそこだけカラーの違う作品となってしまったというのが情報通からのタレコミだ。ただ、結果的に流血は最小限に抑えられ、従来のゾンビ映画よりも幅広い客層を獲得したことは間違いない。マニアからすれば、モスクワのスプラッター決戦バージョンも、何らかの形で観られるようにして欲しいと願っていることだろう。

感染の原因こそはうやむやだが、多少のツッコミどころはあるにしろ、きちんと解決策を見出すところが絶望的にならずに有難い。なお、この作品、アメリカでは6月21日に公開し、2005年にアンジーと共演した「Mr.&Mrs.スミス」のオープニング記録を塗り替え、ブラピ主演映画最高の滑り出しとなったようだ。噂によると、もう続編に着手している模様。元々三部作として企画されていたようで、今回の大ヒットのお陰でその準備も早まったという。

噂によると、もう続編に着手している模様

しかし、ブラピほどの大物スターがゾンビに追い掛けられる映画が出来るとは…。ハリウッド・メジャーをも感染させるゾンビ・ウィルスの感染力の強大さに、ただただ唖然とするばかりである。

ブラピとハリウッドが本気で作った「走るゾンビ」映画。ある意味、恐るべし。

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