2013年度鑑賞作品
スター・トレック
イントゥ・ダークネス
 
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人類最大の弱点は、愛だ。

確立された世界観、キャラ立ちがしっかりした登場人物、魅力的なプロット、スピード感と迫力ある映像、これだけ揃えば面白い作品になることは当然と言える。

1966年にアメリカのTVドラマシリーズとして始まった人気スペースオペラ「スター・トレック」。その後、1979年に映画化され、今作品まで12本が製作された。2009年から始まったJ.J.エイブラムスによってリブートされた新シリーズは、1作目の前日譚に当たり、マンネリ化されたシリーズにリアリティと娯楽性を強めた作品となって大好評を得た。そして、世界的大ヒットを記録した前作から4年、待望の新作「スター・トレック イントゥ・ダークネス」が公開された。

待望の新作「スター・トレック イントゥ・ダークネス」が公開

従来のシリーズを知らなくても、あるいは前作を観ていなくても、今回の作品の面白さは少しも損なわれない出来栄えだ。ある意味「映画の未来」と言えるような映画史に残る名作である。

前作に引き続きJ・J・エイブラムスが監督し、ジェームズ・T・カークやスポックらお馴染みの登場人物が今回も大暴れ。

前作に引き続きJ・J・エイブラムスが監督し、ジェームズ・T・カークやスポックらお馴染みの登場人物が今回も大暴れ

そして、物語をドラマチックにし、エンタテインメント性をレベルアップするためには、魅力的な悪役の存在が必要。今回登場するジョン・ハリソンという男。彼から漂うクールな狂気と秘めた哀しさが秀逸で、ミステリアスで異質な設定がストーリーに厚みを増す。英国人俳優ベネディクト・カンバーバッチが演じるジョン・ハリソンの素性をバラしてしまうと、映画の興味が半減されてしまうので遠慮しておくが、昔からの「スター・トレック」ファンからすれば、「ほ〜そうきたか」という感じである。

今回登場するジョン・ハリソン

ロンドン生まれの37歳になるベネディクト・カンバーバッチは、舞台出身の俳優で、数々の演劇賞を受賞するも、人気に火がついたのは2010年のBBCドラマ「シャーロック」で主人公シャーロック・ホームズを演じてからである。神経質っぽい無表情な面持ちは何を考えているのか分からない不気味さがあり、冷酷な役にはピッタリ。

主人公のジェームズ・T・カークに扮するクリス・パインは、前作でもカークを演じ、世界中にその名を知られた。続いて、トニー・スコット監督のアクション映画「アンストッパブル」でデンゼル・ワシントンと共演し、今後公開が予定されている「Jack Ryan」では、過去にアレック・ボールドウィン、ハリソン・フォード、ベン・アフレックが演じたトム・クランシーのアクション・ヒーロー「ジャック・ライアン」を演じている。

主人公のジェームズ・T・カークに扮するクリス・パイン

大迫力の映像で観客の度肝を抜く作品だが、J・J・エイブラムスが目指したのは深く感情に訴えかける人間ドラマの要素が強い。困難に直面し、自らの信念に向き合う事になるクルーたち。愛する者、さらには地球の未来のために、人は何を犠牲にするのか。この究極の問いは、SFにありがちな遠い世界の絵空事ではなく、今を生きる人類に向けたリアルなメッセージと社会的テーマを含んでいる。観客の涙腺を多々刺激するドラマティックな展開と映像美は、この作品の最大の魅力であり、老舗SF映画の面目躍如と言える。

老舗SF映画の面目躍如

前作から1年後の西暦2259年、ジェームズ・T・カーク率いる「U.S.S.エンタープライズ」が、惑星ニビルの未開種族を絶滅の危機から救おうと奮闘していた。火山の噴火から住民の生命を救うべく冷凍爆弾の起動をスポックに指示するが、トラブル発生で危機に陥るスポック。

トラブル発生で危機に陥るスポック

科学が発展していない未開の星の住民にハイ・テクノロジーを提示し、歴史に介入する行為は連邦法により禁じられているため、あくまで極秘任務を強いられている。感情に左右されず合理性を重んじるバルカン星人のスポックにとっては、規律違反は論外。粛々と死を覚悟するスポック。しかし、艦長になっても無鉄砲で規則より友情が大事な若者ジム・カーク。規律違反などお構いなしでスポック救出に向かう。この冒頭のシーンで、本能に従う熱いカークと、あくまでも理論と規則を重んじるスポックの対比をくっきりと際立たせた。

絶体絶命の状況に陥ったスポックを救助するためとはいえ、エンタープライズを住民に目撃されることになり、最優先の指令である「艦隊の誓い」に違反したとしてカークは降格処分になる。そして、宇宙艦隊にカークの規約違反を報告したのは何とスポック本人。「命を救ってくれたことには感謝はするが、規則違反は報告の義務があり当然のことだ」とサラリと答えるスポックに憤慨するカーク。2人は別々の船での任務に就くことを命じられる。

「命を救ってくれたことには感謝はするが、規則違反は報告の義務があり当然のことだ」とサラリと答えるスポック

一方、ロンドンでは謎の男が、難病の幼い娘を抱える父親に接触。娘の病を治す奇跡の代償に宇宙艦隊の秘密施設内を自爆テロするように促す場面が描かれる。

ロンドンでは謎の男が、難病の幼い娘を抱える父親に接触
宇宙艦隊の秘密施設内を自爆テロするように促される

テロの犯人と判断されたジョン・ハリソンの追跡を協議するため、ちょうど地球付近にいた主だった士官たちがサンフランシスコの艦隊本部に召集された。その席上、カークは敵の狙いを直感で感知。しかし、時すでに遅く、会議場はハリソンによる攻撃を受け、多くの死傷者が出る。その中に、父親代わりに指導してくれた恩師のパイク提督の姿もあり動揺するカーク。

恩師のパイク提督

宇宙艦隊の法が及ばない惑星連邦と敵対するクリンゴン帝国の惑星クロノスに逃げ込んだハリソンを、マーカス提督の命令によって再びカークの指揮下に置かれることになったエンタープライズが追う。しかし、クリンゴン帝国の領域に惑星連邦の宇宙船が侵入するのは戦争の勃発を意味する。

マーカス提督は新たに開発したプロトタイプ光子魚雷を中立地域から発射してハリソンを暗殺せよとカークに指示し、72発の光子魚雷をエンタープライズに搭載させる。しかし、素姓のわからない武器を艦に載せることをスコッティことモンゴメリー・スコット機関主任が拒否し、カークと激しく言い争う。結局、カークはスコッティを解任、出発直前に下船させることになった。また、乗員名簿に載っていなかった女性科学士官の乗船を、カークがスポックの反対を押し切って許可。後に彼女はマーカス提督の娘キャロル・マーカスと判明。

72発の光子魚雷をエンタープライズに搭載させる

直接惑星クロノスを攻撃することをせず、クリンゴン帝国の本拠地へ乗り込みクリンゴン人相手に逃げ込んだ犯人を引き渡すように話し合いを試みるが、そこにハリソンが現れ、三つ巴の銃撃戦が始まる。ハリソンはほぼ1人でクリンゴン人を全滅させる超人的な強さを発揮する。

ハリソンはほぼ1人でクリンゴン人を全滅させる超人的な強さを発揮
三つ巴の銃撃戦が始まる

しかし、エンタープライズに搭載している72発の光子魚雷の存在を知ったハリソンは、意外にもあっさりとカークたちに拘束される。そして、エンタープライズに捕われたハリソンは、自分の正体と72発の光子魚雷の衝撃の事実を明かす。その驚くべき正体を知ったカークたちの前に、マーカス提督が乗り込んだドレッドノート級の新型戦闘艦「U.S.S.ヴェンジェンス」が姿を見せる。

外にもあっさりとカークたちに拘束される
自分の正体と72発の光子魚雷の衝撃の事実を明かす

マーカス提督の思惑に反してハリソンを捕らえてしまい、地球で裁判にかけると言い出すカークにハリソンを引き渡すように命令するが、ハリソンと魚雷の秘密を知ってしまったカークたちは敵の立場になってしまった。

カークは拒否して地球へとワープで発進。しかし、ワープ中に追いついたヴェンジェンスがエンタープライズを攻撃したため、月まで2万キロの位置でワープから離脱。エンタープライズを撃墜しようとするが、ヴェンジェンスにひょんなことで潜入していたスコッティの機転の利く妨害工作によりパワーがダウン。

スコッティの機転の利く妨害工作

その隙にカークとハリソンはヴェンジェンスに飛び移り(このシーン最高)、合流したスコッティらと共にブリッジの制圧に成功。しかし、ハリソンはカークの虚に乗じてマーカス提督を殺害し、さらにカークとスコッティを人質にして光子魚雷を引き渡すようスポックを脅迫する冷酷さ。

スポックの妙案で危機を脱したかのように見えたが、結局、両機は地球へと墜落を開始。墜落するエンタープライズでは必至に機能を回復させようとするが、メインコアの連結がずれてしまったため、得られたパワーをどこにも送ることが出来ず、その修復には放射線で汚染された区域にあるメインコアへ行くしかない。エンタープライズに戻ったカークは、果敢にも1人でメインコアへ出向き、正しく連結させることに成功。フルパワーが戻ったエンタープライズはスラスターを起動させ、再び衛星軌道へと戻ることが出来たが、大量の放射線を浴びたカークの運命やいかに…ってなストーリである。

墜落するエンタープライズ
墜落するエンタープライズ

迫りくる死に怯えるカークは常に冷静なスポックに問いかける、「怖いよ、この感情を克服するにはどうすればいい?」。リーダーとしての資質を開花させていくカークのそばで人間らしい感情を学びつつあるスポックは、友の死を意識することで知る心の痛みに混乱。

迫りくる死に怯えるカークは常に冷静なスポックに問いかける

このシーンが象徴する心の通い合いがドラマに深みを加える。そこからの展開やスポックの活躍は劇場でご覧ください。

本名は別にあるが、ハリソンという敵役ももともと冷酷な悪者だったわけではなく、ある意味時代が生んだ犠牲者なのかも知れない。合理主義者で杓子定規に規律を守ろうとするスポック、その正反対のハリソン、そして、両者の間で揺れるカーク。この3人に、対テロ戦争後のアメリカ国内の揺れる価値観が暗喩されている感が否めない。

合理主義者で杓子定規に規律を守ろうとするスポック、その正反対のハリソン、そして、両者の間で揺れるカーク

また、直情型のカークと論理派のスポックが、奇しくも艦長として艦とクルーを救うため、全く同じ行動をとることで、J・J・エイブラムスは「スター・トレック」シリーズにおけるリーダーシップのあり方を簡潔に表現してみせた。そして、J・J・エイブラムスは、ジーン・ロッテンベリーが育て上げたテレビシリーズ、そして、多くの劇場版の長い歴史を受け継いだ上で、全く新しいシリーズへと生まれ変わらせることに成功した。タイムパラドックスを用いたパラレルワールドにしてしまうという、前作の脚本のアイディアが秀逸だったことは間違いないが、結果的に次回作への可能性を残しつつも、「スター・トレック」ビギニング2部作として見事に時の輪を閉じ、次回作は誰が監督をしても制作しやすいようなエンディングが用意した。

全く新しいシリーズへと生まれ変わらせることに成功した

これでJ・J・エイブラムスは「スター・ウォーズ」の制作に入ると思うが、リブートの天才としての彼の手腕に期待するファンは多いことだろう。新たな「スター・ウォーズ」の公開も待ち遠しい。

今までの3D映画がすべて過去の物になってしまうほどの出来栄えだと評判の3D映像。超高解像度IMAXカメラで撮影され、最適な状態で3Dに変換された驚異の映像は、観る者を未知の惑星に連れて行く。壮大なスターシップ同士のバトルから生身の人間のリアルファイトまで、一瞬たりとも目が離せない。3D映画を徹底的に研究しつくし、「スター・トレック」の世界に相応しい前人未踏の映像を創り上げようとした製作スタッフの努力は、見事に結実したと言えるだろう。ぜひ大スクリーンで「体感」して欲しいところだが、最近の映画館での上映時間が少々オカシイ。大阪だけの事かも知れないが、3Dでの上映が少なく時間帯も一般向きではない。2Dを基準にタイムスケジュールが組まれている気がしてならない。3D料金を払うくらいなら2Dでけっこうという大阪人気質を考慮した結果なのだろうか。今回は3Dで鑑賞したかった…。

スター・トレック イントゥ・ダークネス

J・J・エイブラムスは、超高解像度のIMAXカメラで作り出した3D映像に負けない力強いドラマを作り、人間味を盛り込んだ。そこには忠誠心、自己犠牲、といったヒーロー・ドラマに不可欠の要素があり観客の血潮は沸き立つ。若者は成長し、強烈な悪役の登場で一段と魅力を増したドラマの後味は清々しい。

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