2013年度鑑賞作品
マン・オブ・スティール
 
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新スーパーマン、始動。

「空を見ろ!」「鳥だ!」「飛行機だ!」「いや、スーパーマンだ!」というフレーズがすっかり陳腐になった感が否めない21世紀。この作品のスーパーマンは、古き佳き時代のスーパーマンとは一味も二味も違っている。

古き佳き時代のスーパーマンとは一味も二味も違っている

彼を主役としたコミックは、1938年に原作ジェリー・シーゲル及び作画ジョー・シャスターによって「アクション・コミックス誌」第1号で初登場。そして、「スーパーマン」はアメリカン・コミックス初のスーパーヒーローとなった。その後、クリプトン星で生まれて「カル・エル」と名づけられ、地球の育ての親からクラーク・ケントと名づけられた驚異の能力を持つ好青年は、ラジオドラマを皮切りにに長編劇映画まで、多くの分野で活躍を続けてきた。しかし、最近の映画の世界では、「スパイダーマン」や「アイアンマン」「バットマン」に人気を奪われてしまっているのが現状。

スパイダーマン
アイアンマン バットマン

1978年から1987年まで、クリストファー・リーヴが演じた4本の「スーパーマン」シリーズ、その後、前シリーズの2本目続編として作られたブライアン・シンガー監督の「スーパーマン リターンズ」。全世界で約4億ドルを売り上げ、2006年の公開作品としては、北米内で6位、全世界で9位の成績であり、続編の企画も進んでいたが、結局は制作されることはなかった。

スーパーマン リターンズ

それから7年、今回の「マン・オブ・スティール」は、スーパーマンがアメリカン・コミック初のスーパー・ヒーローの意地を見せた作品として満を持しての登場だ。そして、これまでの「スーパーマン」像を覆す映画でもある。まず衣装。これまで一貫して青い全身タイツに赤パンツという出で立ちから、「バットマン」が使用したようなダークでメタリックなボディスーツに様変わり。胸の「S」のマークもこれまで「スーパーマン」の「S」と思われてきたが、クリプトン星の「希望」を表す記号で、たまたま「S」に似ていたという設定になっている。

れまで一貫して青い全身タイツに赤パンツという出で立ちから、「バットマン」が使用したようなダークでメタリックなボディスーツに様変わり

つまり、この作品は、「ダークナイト」のクリストファー・ノーラン製作、「300/スリーハンドレッド」「エンジェル・ウォーズ」のザック・スナイダー監督でリブートされた新たな「スーパーマン」シリーズのスタートである。

無敵の能力を備えながらも苦悩して育った青年クラーク・ケントが葛藤し、どうやって己の運命を受け入れるかというプロセスなど、これまで少々省かれていたような「スーパーマン」誕生秘話が描かれる。また、故郷クリプトン星から地球に辿り着くまでの経緯をはっきりと映像で示したのも初めての試みだ。

故郷クリプトン星から地球に辿り着くまでの経緯をはっきりと映像で示したのも初めての試みだ

過剰に鋭敏な感覚と超人的な身体能力を持つ者は、普通の人間にとって驚きや憧れ以上に恐れの対象でしかない。それゆえに幼少時より父親から力の封印を躾けられた若者は、自身の能力を閉じ込めたがゆえに義父を竜巻から救いだせずに死なせてしまったことに後悔する。人々のために力を使えば使うほど恐れられ、使わずにいれば新たな悲しみを生み出してしまう彼は、自分が何のために存在するのか分からない。まさに、大いなる力を持つことの危ういさ、マイノリティという境遇、自己喪失といった苦難に幼いころから晒されてきた。

その力の正しい使い方を探して放浪し、自分は何者なのか、なぜこんな力を持っているのか、物語はそんな主人公の魂の彷徨を描いている。

主人公の魂の彷徨を描いている

映画のプロローグ、宇宙の遥か彼方、崩壊しつつある惑星ととどまる人々の主導権争いは壮大で精緻なヴィジュアルに彩られ、圧倒的な情報量には目をみはるばかり。その映像には先進文明が生んだ哲学が貫かれ、強烈な引力となって観客を作品世界に引き込んでいく。

文明が進み過ぎた結果、硬直化してしまったクリプトン星では、全ての子供は遺伝的に設計され、人工子宮から生まれるという設定。科学者も、戦士も、政治家も、生まれた時からその運命が決定されており、可能性の未来があり得ない世界。禁じられた自然出産で生まれた「カル・エル」は、クリプトン最後の子であって、父のジョー・エルにもその子の将来は予測できない、しかし、クリプトンの崩壊を予測している科学者のジョー・エルには、彼が唯一の「希望」であり、密かに「カル・エル」をクリプトン再興の鍵を握る「コデックス」と共に地球へと送り出す。

彼が唯一の「希望」であり、密かに「カル・エル」をクリプトン再興の鍵を握る「コデックス」と共に地球へと送り出す

地球へと到達した「カル・エル」に、クラーク・ケントという名を与え、人間の子供として育てるのが、養父ジョナサン・ケント。彼はクラークが異星人であり、人智を超える能力を持つこと知りながら自分の息子として受け入れ、この世界で生きるための知恵と目的を授ける役回り。

ジョナサンは、自らのアイデンティティに葛藤する息子に、ここへ来た事の意味を考えさせる一方で、その力を人類はまだ受け入れられない事を悟らせ、彼が独り立ちする日まで、秘密を守り抜こうとする。朴訥なカンザスの農夫の信念は、ジョー・エルと同じように、息子のためなら自らの命をも惜しまない程に強い物であり、この父にして真理を追い求める善良なアメリカ人、クラーク・ケントが形作られる。

真理を追い求める善良なアメリカ人、クラーク・ケントが形作られる

この2人の父親を、ラッセル・クロウとケビン・コスナーというオスカー俳優が演じる豪華なキャスティング。また、地球での母親マーサ・ケントは、2002年にリチャード・ギアと共演した「運命の女」で第75回アカデミー賞主演女優賞やゴールデングローブ賞にノミネートされたダイアン・レインが熱演する。これらの名優が演じる親達のリレーに心酔させられ、そして、「スーパーマン」の内面醸成に親の愛情を色濃く反映させるあたり、制作サイドの緻密な采配が感じられる。

ラッセル・クロウ
ケビン・コスナーとダイアン・レイン

ちなみに、何度も映画化されてきた「スーパーマン」だが、歴代の中で初めて英国人俳優のヘンリー・カヴィルが演じている。2005年にはダニエル・クレイグやサム・ワーシントンと共に「007」シリーズのジェームズ・ボンド役のオーディションの最終テストまで残っていたが、カヴィルは「若すぎる」ことがネックとなり、残念ながら落選。今後、スーパーマンのイメージが強くならなければ、ジェームズ・ボンド役が回ってくるかも知れない。なお、「トワイライト」シリーズの作者であるステファニー・メイヤーにエドワード・カレン役を演じてほしいと言われていたが、今度は年齢が高すぎることがネックとなり、この役はロバート・パティンソンに譲ることになった。

歴代の中で初めて英国人俳優のヘンリー・カヴィルが演じている

自身の出自を知ったクラーク・ケント。そして、クリプトンと地球という2つのアイデンティティを受け入れたクラークを、「スーパーマン」へと成長させるのが、ジョー・エルを殺し、クリプトン再興の鍵を握る「コデックス」を奪い返すためにカル・エルを追って地球へと襲来するゾッド将軍の存在。彼の理念と大義はジョー・エルの対であり、クラークが地球の人々を導くスーパーマンとなるために、彼との対決は避けて通ることの出来ない壁として立ちはだかる。

地球をクリプトン型惑星へと環境を人為的に改変するテラフォーミングし、人類を絶滅させてでも母星の人々を甦らせるというゾッド将軍の大義は、戦士として設計され、クリプトン人を守る事だけを存在意義とする彼にとっては至極当然のこと。自由な未来を自分で選択できるクラークと違い、哀しきゾッド将軍は定められた宿命に抗う事は出来ない。なお、ゾット将軍の鎧は実際に着用するとかなりの重量となることが予想されたため、演じるマイケル・シャノンが自由に動けるようにCGで作成されている。

ゾット将軍の鎧は実際に着用するとかなりの重量となることが予想されたため、演じるマイケル・シャノンが自由に動けるようにCGで作成されている

クリプトン再興の鍵「コデックス」とは、実はクリプトン人のDNAデータが書き込まれたカル・エルそのものであり、彼の存在がクリプトンの箱舟なのだ。この「コデックス」という言葉自体、写本の形状の一種で、古代末期から中世にかけてつくられた冊子状の写本のことで、手書きで複製された本や文書、またはその行為そのものを指して示す用語。中世ヨーロッパにおいて写本はキリスト教の修道院を中心に行われており、遺伝暗号と上手く重ね合わせられている。

ゾッド将軍の計画に協力すれば、結果的に育ての親である人類を滅ぼす事になり、逆にゾッド将軍を倒せば自らの種であるクリプトンの再興が潰える。人類かクリプトンか、「スーパーマン」は1つの種族にとって救世主となり、もう1つの種族にとっては絶滅を宣告する悪魔となる、究極の選択を余儀無くされる。

究極の選択を余儀無くされる
究極の選択を余儀無くされる

2つの種族の間で思い悩む「スーパーマン」が、教会に立ち寄って牧師と話をするというシーンはなかなか象徴的。「ゾッド将軍も地球人も、どちらも信じられない」という「スーパーマン」に対し、牧師は「まずは信じてみる事だ」と答えるのだが、この言葉はこの作品のテーマとも直結し、物語のターニングポイントともなっているシーンである。

最初はゾッド将軍も「スーパーマン」も敵と見做していた軍隊も、徐々に「スーパーマン」を味方だと認識していくあたりは、何となく心が温かくなっていく。

徐々に「スーパーマン」を味方だと認識していくあたりは、何となく心が温かくなっていく

そして、妥協や共存の余地のないゾッド将軍の計画を阻止し、地球人の可能性を信じた「スーパーマン」は、過去のシリーズでは例のない圧倒的な都市破壊の後に、人類を導く救世主として姿を現す。そこには今までの「スーパーマン」のイメージにはほど遠い姿があった。あまりにもストイックで、ユーモアやロマンチシズムの欠片が微塵もなく、「オイオイ」とツッコミを入れたくなるような破壊力。ゾッド将軍とのタイマンでは、都市全体がぶっ壊れるような容赦なさ。これって、本当に地球を守っているのかという疑問が湧くのも否めない。

そこには今までの「スーパーマン」のイメージにはほど遠い姿があった
そこには今までの「スーパーマン」のイメージにはほど遠い姿があった

最後の最後で顔の見える1組の市民を守るために決着をつけるが、それまでの犠牲は計り知れない。スカイブルーに赤いパンツ姿のノスタルジックな「スーパーマン」から、ダークなネイビーブルーとなったコスチュームが象徴するように、多くの少年や少女が憧れた優しく頼もしい「スーパーマン」はもはや存在しないようだ。

ただ、現代の撮影技術やCGの進歩などから考えれば当たり前かも知れないが、これまでの「スーパーマン」シリーズが子供騙しに見えてくるほどの迫力ある映像美は魅力である。常識の枠を超えたスピードで都市上空を縦横無尽に飛翔しながら繰り広げる空中戦など劇場の大画面で見るに相応しい空前絶後のバトルの連続だ。

これまでの「スーパーマン」シリーズが子供騙しに見えてくるほどの迫力ある映像美は魅力

以前の作品では、「スーパーマン」とデイリー・プラネット社の敏腕記者ロイス・レインとの優雅なニューヨークの空中デートシーンで心が和んだものだが、この作品でのロイス・レインはかなりの「G」を受けたことだろう。ただ、今回、エイミー・アダムス演じるロイス・レインは極寒の地でクラーク・ケントを目撃したことから、彼のパワーを知り、調査に乗り出す。そのせいでゾッド将軍に拉致されてしまうが、泣き言1つ言わずクラークと共闘。今回のロイスは守られるだけの女性ではない。

エイミー・アダムス演じるロイス・レインは極寒の地でクラーク・ケントを目撃したことから、彼のパワーを知り、調査に乗り出す
ゾッド将軍に拉致されてしまうが、泣き言1つ言わずクラークと共闘

エイミー・アダムスは、1999年に「わたしが美しくなった100の秘密」のオーディションに合格して映画デビュー。2002年にスティーブン・スピルバーグが見せた彼女の映像がレオナルド・ディカプリオの目に留まったことがきっかけで「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン 」に出演。ディカプリオの恋人役という大きな役を得た。転機となったのは2005年の「ジューンバッグ」で、インディペンデント・スピリット賞や全米批評家協会賞を受賞、アカデミー助演女優賞にもノミネートされた。受賞は逃したが評論家たちは彼女の演技を高く評価し、突如現れた新星とブレイクし、オファーが殺到した。

エイミー・アダムスは、1999年に「わたしが美しくなった100の秘密」のオーディションに合格して映画デビュー

また、ロイス・レインがクラーク・ケントの正体を記事にしようとするが、いまだ社会は異星人を受け入れる準備ができていないことを理由に原稿を止める良識派の編集長ペリー・ホワイトを「マトリックス」3部作でのモーフィアス役でお馴染みのローレンス・フィッシュバーンが演じている。

編集長ペリー・ホワイトを「マトリックス」3部作でのモーフィアス役でお馴染みのローレンス・フィッシュバーンが演じている
編集長ペリー・ホワイトを「マトリックス」3部作でのモーフィアス役でお馴染みのローレンス・フィッシュバーンが演じている

そして、注目すべきはゾッド将軍の美貌の部下ファオラの存在。彼女のコスチューム姿はなかなかクールでよく似合っている。2008年にSFスリラー映画「パンドラム」のキャストに抜擢され、デニス・クエイドやベン・フォスターらと共演したドイツ人女優のアンチュ・トラウェが実にカッコいい。今回の作品で消えてしまうには少々惜しい存在である。

注目すべきはゾッド将軍の美貌の部下ファオラの存在。彼女のコスチューム姿はなかなかクールでよく似合っている。
ドイツ人女優のアンチュ・トラウェが実にカッコいい。

先日、監督のザック・スナイダーと脚本のデヴィッド・S・ゴイヤーが「マン・オブ・スティール」の続編でも起用されることが発表された。また、クリストファー・ノーランもまた、本作より小さな役割ではあるものの、再びプロデューサーを務めると報じられた。なお、続編では映画史上初めて「スーパーマン」と「バットマン」の共演が実現することが明かされており、「バットマン」は「ダークナイト」「ダークナイト・ライジング」のクリスチャン・ベールではなく、ベン・アフレックがキャスティングされている。

続編では映画史上初めて「スーパーマン」と「バットマン」の共演が実現

「ダークナイト」は、ダークでリアルな犯罪劇の「バットマン」という方向性で大ヒットしたエポックメイクな作品だが、今回同じような感覚で「スーパーマン」を「マン・オブ・スティール」として再起動した。そして、「スーパーマン」とは関係なく「スーパーマンをモデルにしたようなヒーローの映画化」といっても差し支えないくらい暗く、重々しい仕上がりになっている。

今回、ジョン・ウィリアムズによる「スーパーマンのテーマ」はなく、近年のクリストファー・ノーラン作品を手がけているハンス・ジマーの奏でるシンフォニーが全編に流れる。賛否両論あるが、15人ものドラマーを擁して紡ぐ躍動のリズムが、主人公の決断を力の限り祝福し、眼前に広がる未来をダイナミックに脈打たせていく効果は抜群だ。

見方を変えれば、チャラチャラしたヒーローものより、シリアスで緊張感あるヒーロー映画を時代が求めているような気がする。スーパーマン誕生から75年。歴史は古いが、アプローチは全くもって新しい。そして、語り口は毅然として揺るぎない。まさに王道と言うべき元祖スーパーヒーロー再起動の一作が、ここに堂々と結実している。

まさに王道と言うべき元祖スーパーヒーロー再起動の一作が、ここに堂々と結実している

「マン・オブ・スティール」は黙示録の時代に生まれた、滅びと再生の神話であり、描かれるのは葛藤を心に秘めた新たな救世主の誕生物語だ。

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