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エリジウム/Elysium
 
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Elysium
彼の余命は、あと5日…。

2010年8月に日本公開された「第9地区」の監督ニール・ブロムカンプの新作ということで、公開前からかなりの話題になった「エリジウム」。

エリジウム

3000万ドルの製作費で全世界で2億1000万ドルも稼ぎ出した「第9地区」は、地球に難民としてやってきたエイリアンとそれを抑圧する人類の対立をドキュメンタリー風に描いた作品で、舞台となった南アフリカ共和国でかつて行われていたアパルトヘイト政策が反映されたストーリーになっている。そして、第82回アカデミー賞では作品賞、脚色賞、編集賞、視覚効果賞にノミネートされ、その他、第67回ゴールデングローブ賞など2009年度の多数の映画賞でノミネート、また、賞を受賞した。

第9地区

そんなニール・ブロムカンプにコロムビア映画は前作の4倍近い製作費1億1500万ドルを託した「エリジウム」には、マット・デイモンやジョディ・フォスターなどの大物俳優が出演し、格段にスケールアップされた高度なVFXもふんだんに使用され、ニール・ブロムカンプお得意の格差社会が「ディストピア」と「ユートピア」に二極化された近未来世界の姿が描かれている。監督の高校時代の友人であり、前作主演のシャールト・コプリーも出演し、前作から一転して冷酷な悪役を演じている。

前作から一転して冷酷な悪役を演じている

「プロメテウス」のように、SF映画のタイトルにギリシア・ローマ時代の古典的な言葉を付けることがトレンドかどうか分からないが、今回の「エリジウム」もまた、ギリシア・ローマ神話で神々に愛された者や英雄のみが死後に住める地の西端にあるとする楽園のことである。楽園があるということは、逆に地獄もあるということで、「エリジウム」もまさにそんな作品である。

時は2154年。地球は環境汚染と人口増加によって荒廃と混乱が加速し住める状態ではなくなっていた。

時は2154年。地球は環境汚染と人口増加によって荒廃と混乱が加速し住める状態ではなくなっていた

ひと握りの「超富裕層」は豊かな生活を続けるため、地表から400キロ上空の宇宙空間に建造されたアルマダイン社によって建てられたスタンフォード・トーラス型の清潔無比の人造宇宙ステーション「エリジウム」に移住。明るい日差し、優しい緑、清浄な大気、日々楽しく暮らすことが出来る楽園「エリジウム」には完璧な「医療ポッド」があり、どんな不治の病も大怪我も一瞬で治り、老いることもない。その豊かな暮らしを守るため、貧困層は完全シャットアウト。一方、荒廃した地球では労働者たちが搾取されている。彼らはケガや病気に苦しみ、短命。そのため、命懸けで「エリジウム」への密入国を図る者が絶えない。

地表から400キロ上空の宇宙空間に建造されたアルマダイン社によって建てられたスタンフォード・トーラス型の清潔無比の人造宇宙ステーション「エリジウム」
明るい日差し、優しい緑、清浄な大気、日々楽しく暮らすことが出来る楽園「エリジウム」 明るい日差し、優しい緑、清浄な大気、日々楽しく暮らすことが出来る楽園「エリジウム」
医療ポッド どんな不治の病も大怪我も一瞬で治り、老いることもない

そのスペースコロニーの保安機関を監督するのはデラコートという女性防衛長官。「エリジウム」の国境を監視し、「CCB(民間協力局)」という、地球の秩序を保ち地球の住民を監視する機構を指揮する。不法入国に対する厳しい判断は、他の「エリジウム」の指導者から同意を得られていないにも関わらず、不潔で落書きだらけのシャトルが次々とやって来る度にあらゆる手段を使って「エリジウム」の安全を維持する。

スペースコロニーの保安機関を監督するのはデラコートという女性防衛長官

ちなみに、この作品では、ジョディ・フォスターのためにジョルジオ・アルマーニが特注コスチュームを制作している。デラコートが着用するラペルが特徴的なピューターカラーのジャケットとスカート、グレーのショールカラー、シングルのパンツスーツ。また、チョコレートブラウンのレザードレスやマイクロチェックの刺繍でクラシックな印象に仕上げたクリームカラーのシフトドレス、そして、ブロンズメタリックのピークトラペル・シングルジャケットとコッパートーンのシルクパンツなど、役柄を引き立てるスタイルが数々登場する。

役柄を引き立てるスタイルが数々登場する

地球に残された貧しい人々はエリジウムを見上げながら、 汚染や貧困のなかで生きるしかなかった。マックス・ダ・コスタはロサンゼルスのスラムに居住。孤児院育ちのマックスは、かつては犯罪に手を染めたが 今はアーマダイン社で過酷なロボット製造ライン工場で真面目に勤労。ある朝、通勤バスを待つ時に警備ロボットに反抗的な態度を取ってしまったマックスは腕を折られる。保護観察所に出頭すると同じ孤児院で育てられた幼馴染のフレイと再会する。

マックス・ダ・コスタはロサンゼルスのスラムに居住
アーマダイン社で過酷なロボット製造ライン工場で真面目に勤労

次の日、マックスは人為的事故に遭遇し致命傷を負ってしまう。所長の命令で嫌々入った核融高炉で事故が起こり、大量の照射線を浴びたのだ。そして、マックスに残ったのは、身体をかろうじて機能させる劇薬マイポロール数錠と余命5日間。アーマダイン社CEOのジョン・カーライルには労働者階級は家畜と同じ、使い物にならなくなったらさっさと捨てて次をあてがう。働きたい労働者は幾らでもいる。

カーライルは地球に居住する義務のある数少ない「エリジウム」市民。アーマダイン社は、ロンドン、パリ、マドリード、ローマ、モスクワ、シドニー、東京、ソウルとメキシコ・シティに支店や施設を持ち、最大かつ「エリジウム」の最も重要な建設会社の1つというだけでなく、その建設の責任を負っている。そのため、セキュリティ・ロボットが「エリジウム」に近づく人間を排除しながら何千人もの労働者があくせく働く頭上で、彼はロサンゼルス本部内に防弾ガラスに囲まれながら会社を運営する。

ロサンゼルス本部内に防弾ガラスに囲まれながら会社を運営

工場を追追い出され自暴自棄になったマックスは、裏社会の人間スパイダーと会う。彼だけが「エリジウム」に行けるニセIDを発行できる人物。「エリジウム」には医療ポッドがある。死にたくないと切望するマックスはそれで治療したいと願う。スパイダーは「エリジウム」に行かせる条件として、超富裕層の脳のデータをマックスの脳にダウンロードすること。そうすれば銀行口座などありとあらゆる金に結びつく情報が得られる。

スパイダーは「エリジウム」に行かせる条件として、超富裕層の脳のデータをマックスの脳にダウンロードすること

マックスに断る理由はなかった。ニセのIDを腕に焼き付け、エクソスーツと呼ばれる筋力増量マシーンを身に纏い、あたかもサイボーグのようなボディとなる。そして、ターゲットを自分を首にしたカーライルに狙いを定める。この辺りの設定はこの作品でキモとなる部分。頭に端末を装備し、あらゆる情報をそれが管理する。つまり、その端末から情報を盗み取れば、その持ち主が把握している全てのことが手に入る。また、「エクソスーツ」という筋力増量マシーンは、「巨人の星」の「大リーグボール養成ギブス」の進化系のようなモノで、これを脳や神経に「融合」させる。ただ、その手術シーンが少々痛々しい。

エクソスーツと呼ばれる筋力増量マシーンを身に纏い、あたかもサイボーグのようなボディとなる
手術シーンが少々痛々しい
「大リーグボール養成ギブス」の進化系のようなモノ
脳や神経に「融合」

そのころ、カーライルは「エリジウム」に向かいデラコート長官と密約を結んでいた。クーデターを起こそうというのだ。その時、新総裁となるのはデラコート。カーライルへの報酬はこれから200年間の契約延長。経営難に陥っていたカーライルはその提案に飛びつき、「エリジウム」リブートデータを脳に保存するため再び地球へと戻ってきた。

リブートデータをダウンロードしたカーライルを乗せたシャトルを追撃し、カーライルからデータをダウンロードに成功したマックスだが、不法侵入者から「エリジウム」を守ろうとするデラコート長官の重要な特命を受け地球に住む優秀な覆面エージェントのクルーガーとその仲間に邪魔され、負傷する。

リブートデータをダウンロードしたカーライルを乗せたシャトルを追撃
リブートデータをダウンロードしたカーライルを乗せたシャトルを追撃 カーライルからデータをダウンロードに成功
クルーガーとその仲間に邪魔され、負傷する

今は病院に勤務する看護士として白血病末期の幼い娘マチルダと暮らしているフレイは、以前はマックスと一緒に育ち、食物を盗み、警察ロボットをかわし生き延びてきた仲間。マックスはそんなフレイに助けを求める。また、「エリジウム」にある医療ポッドでマチルダの白血病は完治する。マックスはマチルダの治療のためにも「エリジウム」へ向かうしかない。

マックスの脳にダウンロードされたデータはカーライルのパーソナルデータではなく、「エリジウム」の未来が大きく変わってしまい、人類の格差が無くなってしまうというような貴重なデータだった。「これがあれば全システムを変えられる。国境をなくし、すべての人間をエリジウム市民にできる。これはお前の命を救うだけじゃない。すべての地球の人間を救えるんだ。」と、スパイダーたちもマックスたちの後を追い「エリジウム」へ飛び立つ。

マックスはマチルダの治療のためにも「エリジウム」へ向かうしかない
スパイダーたちもマックスたちの後を追い「エリジウム」へ飛び立つ

そして、データを取り戻そうとするクーデターを狙うデラコート長官やクルーガーたちとの壮絶なバトルが始まる。彼らの運命は、そして、「エリジウム」はどうなるのか…ってな展開だが、結末は大きなスクリーンで確かめてほしい。

クルーガーたちとの壮絶なバトルが始まる
クルーガーたちとの壮絶なバトルが始まる クルーガーたちとの壮絶なバトルが始まる

「第9地区」に比べ約4倍の製作費がかかっているだけに、映像はかなりのド迫力で素晴らしい。ニュージーランドの「WETAワークショップ」が強化外骨格「エクソスーツ」などの小道具を制作し、宇宙コロニー「エリジウム」のコンセプトデザインには、「ブレードランナー」などの未来的デザインで知られるシド・ミードが協力。また、日本のアニメファンを自認するブロンカンプ監督らしい、日本刀を武器に暴れ回ったりやロボットのガジェットの楽しさ、装飾品も和風テイストとかなり日本を意識した仕上がりになっている。

ロボットのガジェットの楽しさ
和風テイストとかなり日本を意識した仕上がりになっている

そして、終盤には機械が敵にも味方にもなる皮肉な描写が新鮮。機械の忠実性はそれを操作する人間にこそあるという指摘は納得。単純に強者と弱者の逆転劇ではないストーリーには現実社会にも通じる社会派のメッセージが感じられる。

ある意味「格差」がテーマであるこの作品だが、日本でも前政権では「格差是正」が政策目標となっていた。一般的に格差問題は「所得」で考えられるものであり、現在、様々な分野で低所得の方々への援助もずいぶん厚くなされている。しかし、最低賃金で働くよりも、生活保護を受けた方が収入が大きいとも言われ、この援助が大きいと働く気力が失せてくるのもまた事実である。

楽をさせるよりは、努力をしてこそ最終的に良い結果をもたらすという「子孫に美田を残さず」という諺があるように、最初から決まっているようなものであれば努力する気は起らない。挑戦する機会こそ平等に与えられるべきであり、格差是正のために大量の補助金を与えるよりも、平等で努力が報われる制度にした方がベターだと思われる。挑戦の機会が与えられない固定的な社会制度こそ、格差の根源と言えるかも知れない。

ニール・ブロンカンプ監督のイマジネーションが存分に楽しめるエンターテイメント作品

「エリジウム」は、ハリウッドに乗り込んだニール・ブロンカンプ監督のイマジネーションが存分に楽しめるエンターテイメント作品。これからも彼の才能がどのような作品になって登場するか楽しみである。

ちなみに、撮影舞台裏の映像が15分も公開されている。撮影で使われたカメラもこだわっており、主に使われたのはレッド・デジタル・シネマカメラの「エピック」モデル。このモデルはリドリー・スコット監督の「プロメテウス」やピーター・ジャクソン監督の「ホビット」の撮影にも使われた5K解像度対応の最上位デジタルカメラ。そのカメラで撮影された予告編を見ていると、本編を見る前からテンションが上がること間違いない。

 
Elysium Complete B-Roll (2013) - Matt Damon Sci-Fi Movie HD
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