2013年度鑑賞作品
悪の法則/The Counselor
 
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逃れようのない巨大な「悪」の罠にはまった美しき男と女たち。
その恐るべき「法則」を操る黒幕とは誰なのか。
衝撃の真実に触れたとき、あなた自身も「悪」の虜になる。

何かあれば「再起動」すればいい…なんて甘っちょろい考えを持っている若造は、チョイと過激で刺激的な「悪の法則」を観て、心を入れ直そう。

この作品は、「カウンセラー」と呼ばれる若くハンサムな弁護士が軽い気持ちで裏社会のビジネスに手を染めたことで、周囲のセレブたちを否応なく危険な事態に巻き込み、彼らの日常を揺るがしていく様を描いたクライム・サスペンス。容赦のない悲惨な運命が不条理に襲ってくる展開は、観客の度肝を抜く強烈さ。

この作品は、「カウンセラー」と呼ばれる若くハンサムな弁護士が軽い気持ちで裏社会のビジネスに手を染めたことで、周囲のセレブたちを否応なく危険な事態に巻き込み、彼らの日常を揺るがしていく様を描いたクライム・サスペンス

「悪の法則」は、若くて有能で才能溢れる「カウンセラー」と呼ばれる弁護士、「カウンセラー」の婚約者ローラ、「カウンセラー」の友人で実業家ライナー、裏社会の住人で麻薬密売人役ウェストリー、元ダンサーでライナーと同棲中の恋人マルキナ、その5人の主演「キャスト」中心にストーリーが展開される。

5人の主演「キャスト」中心にストーリーが展開される

「カウンセラー」には、2007年「300〈スリーハンドレッド〉」のスパルタ戦士役で映画デビューし、2008年公開の「ハンガー」で英国インディペンデント映画賞主演男優賞を受賞、ヨーロッパ映画賞男優賞にノミネートされたマイケル・ファスベンダーが扮する。ちなみに、2011年に主演作「SHAME〈シェイム〉」がヴェネツィア国際映画祭で公開され、男優賞を受賞。

マイケル・ファスベンダー

ここ2年のファスベンダーの多忙さは凄まじいものがある。「SHAME」をはじめ、「危険なメソッド」「エージェント・マロリー」という3本の映画すべてで主役級を演じており、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」、リメイク版の「ジェーン・エア」、そして、「悪の法則」の監督でもあるリドリー・スコット監督による豪華絢爛なSFフィクション「プロメテウス」でも印象的なアンドロイド役を演じている。

「プロメテウス」でも印象的なアンドロイド役を演じている

そして、2014年公開予定の「X-Men: Days of Future Past」では、過去のエリック・レーンシャー(マグニートー)を演じることになっている。

婚約者ローラには、美人で有名なスペイン女優のペネロペ・クルス。2008年公開のウディ・アレン監督の「それでも恋するバルセロナ」でスペイン人女優として初めてアカデミー助演女優賞を受賞。また、その年には、英国アカデミー賞助演女優賞、ゴヤ賞助演女優賞なども受賞した。なお、個人的に好きな作品である「NINE」の カルラ・アルバネーゼ役でアカデミー助演女優賞にノミネートされている。

婚約者ローラには、美人で有名なスペイン女優のペネロペ・クルス
「NINE」の カルラ・アルバネーゼ役でアカデミー助演女優賞にノミネート

「カウンセラー」の友人ライナーは、ラグビーのスペイン代表チームに選抜されるなど、スポーツ選手としても活躍したスペインの俳優ハビエル・バルデム。2007年公開の「ノーカントリー」でスペイン人俳優として初めてゴールデングローブ賞助演男優賞、アカデミー賞助演男優賞を受賞する。

「ノーカントリー」でスペイン人俳優として初めてゴールデングローブ賞助演男優賞、アカデミー賞助演男優賞を受賞

ちなみに、2012年には記念すべき50周年を飾り、シリーズ最高の興行収入を記録した「007」シリーズ第23作「007 スカイフォール」で悪役シルヴァを熱演。「ノーカントリー」での殺し屋を彷彿とさせる奇妙な佇まいと静かな狂気に満ちた演技は印象的で、同年度英国アカデミー賞でも助演男優賞にノミネートされている。

「007 スカイフォール」で悪役シルヴァを熱演

なお、私生活では、2010年7月にバハマでペネロペ・クルスと結婚。2011年1月に長男が誕生。そして、2013年7月に長女ルナが誕生した。

裏社会の住人ウェストリーには、言わずと知れた「ブラピ」ことブラッド・ピットが印象的な演技を披露する。ブラッド・ピットは、映画やテレビへのゲスト出演を繰り返した数年後の1991年のロードムービー「テルマ&ルイーズでテルマのボーイフレンドのJ.D.を演じ、知名度を上げた。この作品でのテルマ役のジーナ・デイヴィスとのラブシーンは、ブラピをセックスシンボルにした出来事として挙げられている。

テルマ役のジーナ・デイヴィスとのラブシーンは、ブラピをセックスシンボルにした出来事として挙げられている

翌年には、ロバート・レッドフォード監督による伝記映画「リバー・ランズ・スルー・イット」で主役のポール・マクリーンを演じ、この作品でのブラッド・ピットの演技はキャリアを築き上げたと評価された。その後、2001年に1億4300万ドルの興行収入を上げた冷戦スリラー映画「スパイ・ゲーム」で、ブラピが「師匠であり、もう1人の父親のような存在」と尊敬するロバート・レッドフォードと共演を果たしている。

「スパイ・ゲーム」で、ブラピが「師匠であり、もう1人の父親のような存在」と尊敬するロバート・レッドフォードと共演

1995年には、犯罪スリラー映画「セブン」で連続殺人鬼を追う刑事を熱演。この作品は批評家からも好評で、ピットが「ねばり強く精力的な刑事」を体現したことを絶賛した。そして、「セブン」の成功の後、テリー・ギリアムのSF映画「12モンキーズ」に出演。作品の評価とともにピットの演技も素晴らしく、ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞、アカデミー賞助演男優賞にも初めてノミネートされた。

テリー・ギリアムのSF映画「12モンキーズ」に出演

さらに、1960年の「オーシャンと11人の仲間」をリメイクした痛快強盗映画「オーシャンズ11」にラスティ・ライアン役で出演。ジョージ・クルーニー、マット・デイモン、アンディ・ガルシア、ジュリア・ロバーツらのアンサンブル・キャストに加わった。「オーシャンズ11」は批評家から好評を得たほか、全世界で4億5000万ドルを売り上げ、興行的にも成功した作品である。なお、続編である「オーシャンズ12」は、世界で3億6200万ドルを売り上げ、ブラピとクルーニーのダイナミックさは「ポール・ニューマンとロバート・レッドフォード以来の相性」であると評された。

ブラピとクルーニーのダイナミックさは「ポール・ニューマンとロバート・レッドフォード以来の相性」であると評された

2008年にデヴィッド・フィンチャー監督の「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」に主演。老人の姿で生まれた男が齢を取るごとに若返ってゆくという物語で、ブラピの繊細な演技が「ベンジャミン・バトン」を不朽の名作に作り上げている」と絶賛。同作の演技により、初めて全米映画俳優組合賞にノミネートされ[、4度目となるゴールデングローブ賞、2度目となるアカデミー賞ノミネートも果たした。なお、「ベンジャミン・バトン」はアカデミー賞では合計13部門でノミネートされた。

2008年にデヴィッド・フィンチャー監督の「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」に主演

そして、2011年にパルム・ドールを受賞したテレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」でショーン・ペンと共演。また、同年に実話を原作としたドラマ映画「マネーボール」で「オークランド・アスレチックス」のゼネラル・マネージャーのビリー・ビーンを演じ、批評家から強力な支持を集め、ブラピは再びアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。

謎の女ライナーの恋人マルキナを演じるキャメロン・ディアスは、17歳の時にファッションモデルとしてデビュー。1992年に日本に約2ヶ月間滞在したこともあるという。

謎の女ライナーの恋人マルキナを演じるキャメロン・ディアス
謎の女ライナーの恋人マルキナを演じるキャメロン・ディアス 謎の女ライナーの恋人マルキナを演じるキャメロン・ディアス

21歳の時に994年公開作品「マスク」のオーディションに合格し、映画デビューを果たす。その後は地味な活躍ぶりだったが、1998年公開の「メリーに首ったけ」が1億ドルを超える大ヒットとなり、この作品でニューヨーク映画批評家協会賞女優賞を受賞、ゴールデングローブ賞のミュージカル・コメディ部門主演女優賞にもノミネートされ、一躍スター女優となった。

1998年公開の「メリーに首ったけ」が1億ドルを超える大ヒット

2000年からは「チャーリーズ・エンジェル」シリーズに出演し、2001年からはアニメ映画「シュレック」シリーズのフィオナ姫の声優を務めている。コメディエンヌとしてキュートな魅力を振りまいてきたキャメロン・ディアスが、今回の「悪の法則」で魅せる得体の知れない妖艶な演技にはド肝を抜かれる観客もきっと多いはず。何と言ってもフェラーリとの絡みには衝撃を受けること間違いない。そして、チーター模様のタトゥーが印象的。

何と言ってもフェラーリとの絡みには衝撃を受けること間違いない
何と言ってもフェラーリとの絡みには衝撃を受けること間違いない チーター模様のタトゥーが印象的

このように世界的なスーパースター級の豪華キャストが、これまでのイメージを裏切る意外なキャラクターに挑戦。怪しげな裏社会のブローカー役のブラッド・ピットのショッキングなシーン、不気味な存在感が異彩を放つハビエル・バルデムがド派手なファッションで演じる飄々とした軽いセレブ実業家、セクシー女優ペネロペ・クルスの純情可憐で恐怖に怯える美しき婚約者など、ある意味意外なキャスティングが妙に斬新で新鮮。

ハビエル・バルデムがド派手なファッションで演じる飄々とした軽いセレブ実業家

この話題のプロジェクトを仕掛けたのは、「グラディエーター」などで3度のアカデミー監督賞ノミネート経験を誇るリドリー・スコット監督。ただ、監督賞には縁が薄く、1977年のカンヌ国際映画祭で「デュエリスト/決闘者」で新人監督賞を受賞したのみで、これまでアカデミー賞をはじめ数々の映画賞で監督賞にノミネートされているが、いずれも受賞を逃している。なお、作品賞はプロデューサーに与えられる賞のため、スコット自身は「グラディエーター」でもオスカー像を手にしていない。

リドリー・スコット監督

しかし、映像製作に関するすべての作業に熟知しており、絵コンテの執筆や撮影などを自らの手で行うことも多い。特に作品のイメージをまとめた絵コンテやイメージボードの画力はハイレベルであり、映画愛好家のコレクターズアイテムともなっている。また、映画界屈指の映像派として知られ、初期の作品では幻想的な映像美が見られるが、美術から照明など細部にわたり構築していく完璧主義がたたり、製作ペースの遅れやスタジオとの対立から数多くのディレクターズカット版が作られるなど辛酸をなめたケースも少なくない。

映像製作に関するすべての作業に熟知
映画界屈指の映像派

そして、「悪の法則」は、1992年に発表した「すべての美しい馬」がベストセラーとなり、全米批評家協会賞と全米図書賞を受賞、2005年の「血と暴力の国」は2007年に「ノーカントリー」として映画化され、アカデミー作品賞を含む計4部門を始めとする数多くの賞を受賞し、また、2006年に発表した「ザ・ロード」もピューリツァー賞を受賞してベストセラーになった小説家コーマック・マッカーシーが書き下ろしたオリジナル脚本。

コーマック・マッカーシー

そのハリウッド屈指の映像派として名高い巨匠とコーマック・マッカーシーのタッグは、欲望に駆られて裏社会のビジネスに手を出した弁護士とその仲間たちが危険な罠にハマり否応なく堕ちて行く姿を、セレブの虚飾に満ちたライフスタイルと危険な香りをアーティスティックでスタイリッシュに描き出す。その緻密なビジュアルにはスリルや官能が渦巻き、スキャンダラスで危険な世界に観る者をクラクラさせることは必至。人間の闇をあぶりだす名手のコーマック・マッカシーによる脚本は、それぞれに衝撃的な運命を用意して、情け容赦ない。

「カウンセラー」と呼ばれる弁護士は、恋人ローラにプロポーズをして、人生の絶頂期にいた。少しだけ贅沢をしたかった「カウンセラー」は、軽い気持ちで友人の実業家のライナーと裏社会のビジネスに携わるウェストリーと手を組み、利益率4000%の麻薬取引に手を染めることになる。それは、ちょっとした「欲」だった。

「カウンセラー」と呼ばれる弁護士は、恋人ローラにプロポーズをして、人生の絶頂期にいた

後日、メキシコのバーでウェストリーに会った「カウンセラー」は、ウェストレーから「メキシコの麻薬組織カルテルは、失敗した者に容赦無しで残忍だ、やめておけ。特に弁護士には無慈悲だ。」と忠告されるが、もはや巨額の報酬に目が眩んだ「カウンセラー」には忠告の声も耳に入らない。

もはや巨額の報酬に目が眩んだ「カウンセラー」には忠告の声も耳に入らない

その後、「カウンセラー」は彼のクライアントの1人である受刑者のルースに、その息子の保釈を依頼される。ルースの息子はスピード違反で逮捕された「グリーン・ホーネット」と呼ばれるバイカーだった。そして、保釈された「グリーン・ホーネット」は、偶然にも自身が携わった裏のビジネスの「運び屋」だったことを知る「カウンセラー」だったが、それは取引に向かう際に産業道路をバイクで飛ばしてきたところを謎の男によって仕掛けられたワイヤーで首を切断されて殺害された後の事である。さらに、2000万ドル相当のドラッグも奪われてしまった。

謎の男によって仕掛けられたワイヤーで首を切断されて殺害

ウェストリーは「カウンセラー」に「まずい状況だ。彼らは偶然などという言葉を知らないし、その意味も知らない。裏社会に足を踏み入れておいて、自分は無関係だなんて甘すぎるぞ」と警告。ここから丁々発止の展開が怒涛のごとく押し寄せてくる。

黒幕は比較的簡単に想像できるかも知れないが、スクリーンから発せられる緊張感はハンパない。まったく無駄なく陰惨なストーリーが繰り広げられる。ハリウッド映画界に燦然と輝くトップスターたちの豪華競演だけに、派手な娯楽作と思って観たらとんだ見当違い。登場人物の偶然と運命、罪と罰、そして、生と死が交錯し、ゾクゾクするような胸騒ぎを誘うこの極上の心理サスペンスのラストには、衝撃的な結末が待ち受ける。

スクリーンから発せられる緊張感はハンパない

物語の大半を占めるのは登場人物たちの会話と哲学的な思想。画面に登場する様々な隠喩や登場人物が意味深に語った言葉はその後の展開を暗示する。この作品は物語の面白さよりも、そうした「人間」に関する哲学的な考察を重視している感が否めない。状況説明をわざと省いているような印象さえ受け、理解に苦しむところも多々ある。

ただ、ディアスとクルスは女の魔性と純真を体現し、ピット、ファスベンダー、バルデムが男の切なさや愚かさを滲ませ、従来のイメージを覆す異色のキャラクターに挑んだ「悪の法則」は、人間性の極限をドライに描いた恐ろしい傑作と言える。マイケル・ファスベンダー演じる「カウンセラー」だけが名前がないのが象徴的。つまり、誰もが同じ落とし穴に落ちる可能性があるということを意味する。

つまり、誰もが同じ落とし穴に落ちる可能性があるということを意味する

予想を超えた展開力、人が死ぬことの無造作、不条理感の緊張、その哲学の潔さ、さすがマッカーシーとスコットのコンビは半端ない。

余談ながら、帝王ジョルジオ・アルマーニがこの「悪の法則」で大々的なコラボレーションを行っている。映画の衣装デザイナーのジャンティ・イェーツとリドリー・スコットをサポートする形で、アルマーニが「エンポリオ・アルマーニ」のコレクションをメインとする登場人物の衣装を制作している。

アルマーニが「エンポリオ・アルマーニ」のコレクションをメインとする登場人物の衣装を制作

泥沼にはまっていく主人公のマイケル・ファスベンダーは、全編を通じて「エンポリオ・アルマーニ」のコレクションから選び抜かれたスーツを着用。衣装には、1つボタンのネイビーやライトグレーのスーツ、2つボタンのクリーム色のスーツを中心に、様々なシャツやネクタイが使用された。その他にも「エンポリオ・アルマーニ」のデイウェアや「アルマーニ・ジーンズ」などカジュアルなアイテムも数多く登場。また、共演のぺネロぺ・クルスはカスタムメイドのスカーレットのドレスやカーディガン、白いトレンチコートを着用する。

マイケル・ファスベンダーは、全編を通じて「エンポリオ・アルマーニ」のコレクションから選び抜かれたスーツを着用
ぺネロぺ・クルスはカスタムメイドのスカーレットのドレスやカーディガン、白いトレンチコートを着用

1980年の「アメリカン・ジゴロ」でリチャード・ギアの衣装をデザインして先鞭をつけて以来、ファッションデザイナーが映画の衣装を手がけるムーブメントの最前線に立ち続けてきたジョルジオ・アルマーニ。ファッションの観点からでも「悪の法則」は興味深い作品である。

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