2013年度鑑賞作品
清須会議
 
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誰だ! 最後に笑うのは? 歴史が動いた5日間。

三谷幸喜と総勢26名の超豪華キャストで贈る笑いと驚きとドラマに満ちた全く新しい歴史エンターテイメント作品「清須会議」。織田信長亡き後の継嗣問題と領地配分を決めた会議の心理戦を描く群像劇で、数々のヒット作を作り出してきた三谷幸喜が、およそ17年ぶりに書き下ろした小説を自ら映画化した話題作。

歴史エンターテイメント作品「清須会議」

ちなみに、地域や城郭の名称として「キヨス」を表記する際「清洲」を使う場合と「清須」を使う場合があるが、どちらも正しく同じ地域や城を示している。伊勢神宮領を記録した14世紀中頃の「神鳳鈔(じんぽうしょう)」に「清須御厨(きよすみくりや)」として記載されているのが最古の記載としているが、諸説があり、信長公記では「清洲」、三河物語では「清須」と記載されている。

三谷幸喜の小説「清須会議」の題材は1582年に実際にあった出来事を元にしたもので、2012年に出版された。三谷にとって「大根性」以来17年振りの本格小説。当初、2011年中の「三谷幸喜大感謝祭」の一環として発表される予定(仮題は「KIYOSU」)であったが間に合わず、三谷の51歳の誕生日(7月8日)を目前にして発売。

小説「清須会議」

天正10年、本能寺の変で命を落とした織田信長亡き後の、織田家の後継者問題と領地配分を協議するため、尾張の清須城で「評定(会議のこと)」が開かれることになった。そして、筆頭家老の柴田勝家と羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)が後見に名乗りを上げ、両派の心理戦が始まる。2人があこがれるお市様や信長の息子、弟など、さまざまな立場の人間がそれぞれの思惑で動く中、5日間にわたる清須会議が始まった。

日間にわたる清須会議が始まった

この作品、日本人が大好きな戦国武将ものでありながら合戦シーンはなし、それどころかカリカチュアされた有名武将たちがコントのような掛け合いを繰り広げる様は相当アバンギャルドな時代劇であることは間違いない。ただ、我々にとって時代劇とはもともと絵空事であるから、どんな素っ頓狂な作風であっても文句を言う筋合いのものではない。従来の時代劇では、派手な殺陣や合戦の迫力で観客を魅了した。時代劇は斬り合うもの、殺し合うものと勝手にインプットされているだけに、下手すれば退屈になる感も否めない「会議」をテーマにした時代劇ということで、ある意味、三谷幸喜は勇気があると言わざるを得ない。また、冒頭の背景説明のくだりやナレーション、テロップ、登場人物紹介のようなものが一切ない。これまた、時代劇という歴史映画を作る監督にとっては相当勇気がいることである。

しかし、「清須会議」は立派な時代劇として成立しており、軽妙なコメディータッチで観客を「清須会議」の世界観に見事に引きずり込む。贅沢なキャスティングで、どの武将にどの役者を配し、どんな役作りをさせ、どんなセリフ言わせれば面白い作品になるか三谷幸喜は完全に把握している。観客を確信的にコントロールする三谷の演出は見事である。この作品は傑作であり、時代劇ファンからもきっと満足できる仕上がりになっている。

贅沢なキャスティングで、どの武将にどの役者を配し、どんな役作りをさせ、どんなセリフ言わせれば面白い作品になるか三谷幸喜は完全に把握している

織田信長が「本能寺の変」で明智光秀に殺された。信長死後、その跡取りは誰になるか?真っ先の後継者である長男の織田信忠は信長と共に戦死したため、柴田勝家と丹羽長秀が推す三男・織田信孝と、羽柴秀吉が擁立する二男・織田信雄の二人に絞られた。

柴田勝家は織田家の筆頭家老で5人の宿老の1人。通称権六。勝家は織田家のことを真っ先に考える忠義者で、戦場では鬼神の如き強さを見せる反面、謀略や駆け引きは苦手な人物。参謀の丹羽長秀がいなければ事は進まない。不器用だが素直で熱い性格の勝家はこのような大事な時に信長の妹であるお市の方に熱を上げる。

また、羽柴秀吉も織田家の5人の宿老の1人で、通称は筑前、もしくは藤吉郎。宿老としては末席だったが、光秀を討ったことで急速に発言力を高めた。人心掌握に長け、人懐っこい笑顔を見せる内側で、手段を選ばず、己の目的ためにはなんでも利用する性格。秀吉もまたお市の方に強く憧れている。

羽柴秀吉と柴田勝家

通称五郎左の丹羽長秀も宿老の1人で、冷静沈着で明晰な頭脳の持ち主。「会議」では古くからの盟友・勝家の参謀として秀吉に対抗。勝家の人格を好ましく思う一方、その不器用さに一抹の不安も感じている。

柴田勝家と丹羽長秀が推す三男の織田信孝は、本来次男の信雄より先に生まれていたが、母方の血筋が卑しかったため三男とされており、信雄よりもはるかに文武に優れて聡明だが、プライドが高く、長兄の信忠に比べると器は小さい人物。

秀吉の才覚に期待し、彼に様々な策を授ける軍師の黒田官兵衛と秀吉が推す次男の信雄は、どうしようもないバカ殿でろくに考えもせず感覚で動くいい加減な性格。家臣からの人望も皆無に等しいが、当の本人は「うつけ」と呼ばれていた頃の父を真似ているだけで本当は自分は頭が良いと思っているだけに始末が悪い。

織田信孝と信雄

どちらの後継者もイマイチなだけに、勝家と秀吉はお互いの後継者の後ろ盾を探すのに躍起にとなり、そして、勝家と秀吉はそれぞれお市の方と信長の弟・織田三十郎信包を味方に担ぎ出すことに成功。

お市の方は、信長の妹で絶世の美女。浅井長政に嫁いでいたが、浅井家滅亡後は三人の娘と共に織田家に戻っている。夫の長政とは深く愛し合っていたため、夫と当時十歳だった息子・万福丸を殺した兄と、その命を実行した秀吉を深く恨んでいる。

勝家、秀吉双方から好意を向けられていることに気づいており、秀吉への恨みを晴らすべく勝家を利用するしたたかな女性である。

お市の方

また、通称三十郎の織田三十郎信包は、兄とは逆に堅実な性格で家中では地味な存在。現在は政務には興味を示していないが、一門の重鎮であり、また、ある意味後継者争いのキーパーソンでもある。

当初は、次男の信雄を後継者として推薦していた秀吉だが、海岸で旗取り合戦の余興をした際に、「俺って、足の速さには自信があるんだ」と、旗を取らずにそのまま通りすぎてしまう信雄の脳天気さに頭を抱える。これでは勝家に負けてしまうこと必至。帰り道で偶然、松姫と三法師の姿を見つけハッと知恵が回る秀吉。

俺って、足の速さには自信があるんだ

一方、「清須会議」に参加予定だった宿老の1人で勝家側の滝川一益は、信長が死んだ当時は関東で北条家と戦っていたため会議にすぐ駆けつけることができず、北条家の追撃を食らいながらも必死に清須を目指すがなかなか到着できずにいた。

秀吉は信長の義兄弟で打算的で日和見な池田恒興に参加を要請。信長の乳兄弟である池田恒興は、武将としても人物としても二流で、己の出自を笠に着て威張っていたため人望も低い。しかし、処世術には長け、勝ち馬を見抜く眼力の持ち主。この池田恒興を佐藤浩市が見事に演じている。

会議の欠員を埋めるため秀吉の推挙によって急遽宿老に引き上げられ会議に参加することとなり、歴史的な会議が始まった。

歴史的な会議が始まった

涙ぐましい根回し合戦を繰り広げ、勝家派と秀吉派がそれぞれ推す跡継ぎと、各々のオトナの事情でどちらかに肩入れする会議のメンバーの思惑は歴史が示しているが、注目したいのは女性キャラの冷静で冷徹な行動。過去の恨みや血筋の継続、さらには純粋な愛情で歴史の中に存在する女性たちこそ「清須会議」の陰の功労者と言える。秀吉が大嫌いなお市の方が、女を武器にして勝家を手玉にとってしまうシーンや秀吉に一番嫌がる相手と一緒になることでダメージを与えるところには、笑いと女の怨念すら感じさせる。また、執念においては、松姫が寧に語る策略に集約される。

執念においては、松姫が寧に語る策略に集約される

また、この作品の話題の1つに特殊メークの存在がある。三谷監督のこだわりでキャストを極力歴史上の人物像に似せたという。鈴木京香演じるお市の方や剛力彩芽扮する松姫の「お歯黒」のインパクトもなかなかのものだが、当時「ハゲネズミ」と呼ばれていた秀吉役の大泉洋の大きくなった耳や、鷲鼻で血縁を表現したという織田一族の面々との対比が面白い。

ただ、織田一族の三十郎を演じる伊勢谷友介は、もともと鼻が大きいとのことでツケ鼻メークはしなかったという。

伊勢谷友介は、もともと鼻が大きいとのことでツケ鼻メークはしなかったという

アブラギッシュな風貌に足までアブラ足という柴田勝家役の役所広司にいたっては、これまでの重厚な役からガラッと違った役どころを熱演。ペタペタと足跡が残る凄まじさ。

ただ、剛直で戦うしか能のない勝家役の役所がいつもながらに巧みで、真っ直ぐな男に可愛げさえ感じさせる。

勝家役の役所がいつもながらに巧みで、真っ直ぐな男に可愛げさえ感じさせる。

この作品、大泉洋演じる秀吉が絶品。こちらを警戒させずに懐に入り込み、いつの間にか支配されているこの天下人ならではの人身掌握術を疑似体験させてくれる。ひょうきんさでオブラートに包んだ奥の秀吉の有能さ、リーダーとしての凄みというものが十分に味わえる。チャラチャラしていながらしっかりと天下を見据える野心、敵さえも魅了する人間性が豪華キャストの中でもひときわ光っている。

大泉洋演じる秀吉が絶品

忠誠心と野心の衝突は、ともすれば深刻で陰鬱な陰謀劇となるのが常。しかし、そこは三谷作品。三谷ワールド全開のオトナの笑いが詰まっている。ただ、残念なのはキャスティングが豪華すぎて、主演クラスの役者がチョイ役程度の扱いになってしまうのは否めないが、ひじょうにもったいない気がしてならない。中村勘九郎や天海祐希などは、注意していないと「どこに出てた?」ってなことになってしまう。

しかし、チョイ役ながら存在感を十分に発揮したのが西田敏行。滝川一益が清須に向かっている時に出会う北条家家臣の更科六兵衛。そう、前作「ステキな金縛り」に出てくる落ち武者幽霊である。ま、こんな遊び心も三谷映画の楽しいところ。

「ステキな金縛り」に出てくる落ち武者幽霊

また、エンドロールに声優の山寺宏一が「いろんな声」でクレジットされている。三谷監督のインタビューでは、「蚊」や馬の嘶き、そして、エキストラの声。本能寺の変の焼け跡で見物人がいるシーンで、俳優でない人が出てくるので、そういう人たちの息遣いなんかを依頼したという。それと、子供の三法師が笑っている声も山寺宏一の声と言う。

「清須会議」後にそれぞれがどういう運命を辿るのかという事に思いを馳せると、国を治めるということがどれほど私情とは裏腹に、つらい決断をしなくてはならないものかがひしひしと伝わってくる。

その後、義にこだわる柴田勝家は滅亡し、幾多の武将の寵愛を受けたお市の方も人生の最後に彼と運命をともにすることを選ぶ。秀吉と勝家、どちらが正義というわけではない。強いていうならどちらにも正義はあった。互いに理解も尊敬もあったに違いない。それでも相手の命を取らねばならぬ時がある、それが政治というものだろう。その切なさをこの映画は見せてくれる。

その切なさをこの映画は見せてくれる

もちろん、映画のストーリーはそこまで描かず、説明すらしていないわけだが、青い空と少しだけ聞こえる合戦の音のラストシーンは観客にそうした感情を伝えてくれる。「清須会議」は、歴史が大きく動いた「会議」の顛末を見事に描いた三谷演出の真骨頂と言える作品である。

ちなみに、史実では「織田信長の後継者」の地位を争って羽柴秀吉と柴田勝家の対立は強まっていき、1582年末に秀吉と勝家が戦う「賤ヶ岳の戦い(しずがたけのたたかい)」が始まる。翌年4月には秀吉の勝利となり、勝家は妻のお市の方と自害に追い込まれる。さらに戦国の世は、信長の次男である織田信雄と徳川家康連合軍が羽柴秀吉軍と争う「小牧・長久手の戦い」へと続いていく。

三谷演出の真骨頂と言える作品である

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