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2013.Apr. 13
クラウド・アトラス

2004年に発表されたデビッド・ミッチェルのブッカー賞最終候補にもなった「クラウド・アトラス(Cloud Atlas)」を原作に、「マトリックス」シリーズのラナ&アンディ・ウォシャウスキー(兄が性転換をして、ラリー改めラナになり、姉弟となったウォシャウスキー兄弟にビックリ!)と、「パフューム ある人殺しの物語」や「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクバの3人による共同監督で映画化した壮大な映像叙事詩。

クラウド・アトラス

19世紀から文明崩壊後までの異なる時代に舞台を置いた6つの物語をグランドホテル形式で描き、キャストは1人につき複数の人物を演じ、各エピソードにより主役が脇役を演じ脇役が主役を演じるという、複雑な手法が取られる。ちなみに、グランドホテル形式とは、同一時間及び同一の場所に集まった複数の人物の行動などを、同時進行的に一度に描く作品の手法のことで、映画「グランド・ホテル」によって効果的に使用された為この名称が付いた。いわゆる、「群集劇」「群像劇」「アンサンブル・プレイ」と呼ばれているヤツだ。

この映画「クラウド・アトラス」の厄介なところは、1849年から2346年までの6つの時代を舞台に6つの物語をシャッフルさせながら時間軸を錯綜させた編集とシークエンスをランダムに語るという驚異的な脚本で映像化している点である。つまり、ひじょうにややこしい。私のような素人にはこの作品をどのように説明していいのか、正直難しすぎる。賛否両論あって然るべき問題作ってな感じである。

もう1つ厄介な点は、それぞれの時代を演じ分ける主要キャストは1人で4〜6役を演じ分けており、巧妙な特殊メイクがあまりにもお見事すぎて、前知識で何役もしているという情報があるだけに、一体誰が誰を演じているのか分からないというもどかしさ。そんな情報を知らなければ全然気づかない場合もあるのだが、エンドロールのキャスト紹介でネタ明かしをしてくれているので有難いが、まさに「へぇ〜」である。3時間近くの長編だけに、早くトイレに駆け込みたい気持ちもよく分かるが、最後まで席を立ってはいけない。エンドロールを見逃してはもったいない。

主要キャストは1人で4〜6役を演じ分け

1849年の奴隷制度があった時代、医師グースは奴隷売買の契約を終えたユーイングと共に、アメリカへの帰路の船旅に同行する。船底の船室でユーイングは、脱走し密航していた黒人奴隷オーティアに助けを求められる。

医師グースは奴隷売買の契約を終えたユーイングと共に、アメリカへの帰路の船旅に同行する
脱走し密航していた黒人奴隷オーティア

1936年、ユーイングの航海日記を愛読していた音楽家フロビシャーは幻の交響曲「クラウド・アトラス 六重奏」を完成させた後、彼の曲を奪おうとした往年の大作曲家エアズを銃で撃ってしまったため、同性愛の恋人シックススミスに別れの手紙を書き、銃で自殺を図ろうとしていた。

音楽家フロビシャー

その37年後の1973年、物理学者となったシックススミスは、原発事故を引き起こし、石油企業の利権を守ろうとするフックスを告発するため、偶然知り合ったジャーナリストのレイに原発の報告書を託そうとする。しかし、2人に殺し屋の魔の手が迫る。

ジャーナリストのレイ

2012年のロンドン。作家ダーモット・ホギンズが著書を酷評した書評家を殺し、カルト的人気を得たため、彼の著書がベストセラーとなる。ダーモットの出版元であったカベンディッシュは大儲けするが、獄中のダーモットの命令でやってきた彼の弟達に脅され、 助けを求めた兄デンホルムにも騙され、老人介護施設に監禁同様に入院させられてしまう。

作家ダーモット・ホギンズ
老人介護施設に監禁同様に入院させられてしまう

2144年の未来社会。全体主義国家のネオソウルでは、遺伝子操作で作られた合成人間達は人間に支配され、労働力として酷使されている。ソンミ451は、ある日、革命家チャンに救出され生まれて初めて外界に足を踏み入れる。彼女は、自由を得て旅立ったと思われた自分達の仲間が実は殺され、ソープという彼女達のタンパク源となっていたことを知り愕然となる。抑圧からの解放、恐怖からの自由。時にそれらは命がけで手に入れなければならないことを知ったソンミ451はチャンと行動を共にする決意をする。ほとんど意思を持たないように訓練されたクローンのソンミ451が知った愛や喜び、何よりもっと生きたいとの願いが息苦しくなるほど切ない。

ソンミ451は、ある日、革命家チャンに救出され生まれて初めて外界に足を踏み入れる
抑圧からの解放、恐怖からの自由
時にそれらは命がけで手に入れなければならない

そして、文明の崩壊した未来世界の2321年。ある島では凶悪な人食い種族に怯えながらも、人々は遥か昔、世界を救ったとされる女神ソンミを崇め、素朴な生活をしている。島の住民ザックリーは彼の心の闇の部分であるオールド・ジョージーに悩まされ続けていて、人食い種族に襲われた仲間を見殺しにしてしまう。ある日、島に科学文明を維持したコミニティーからメロニムという女性がやってくる。彼女は、「悪魔の山」と呼ばれる人々が恐れ近づかない遺跡へのガイドを求めていた。ザックリーは、カサゴの毒に犯され死にかけている姪の命を救う代わりに「悪魔の山」へのガイドを引き受ける。そこで、彼はメロニムの本当の使命を知ることとなる。

心の闇の部分であるオールド・ジョージー
人食い種族
彼はメロニムの本当の使命を知ることとなる

という6つの時代と6つの物語がスクリーンの中で縦横無尽に繰り広げられ、最後は、2346年の老いたザックリーが遥かな地球を見つめている。これで混乱するなという方が無茶である。

当初、テイストも異なる6つの物語はバラバラにスタートするが、考え抜かれた舞台転換は流れるように自然で、19世紀の弁護士が記す航海日誌を20世紀の作曲家青年が読むなど、どこかでさり気なくつながっているのだなぁ〜と感じさせてくれる。また、主要キャストは6つの物語で別キャラを演じ、観客は生まれ変わりを何となく感じ取る。そして、いつしかスクリーンの中の光景に魅了される。キャストがそれぞれの時代に、人種や性別まで変えて登場するのは、人が生まれ変わり、輪廻転生を繰り返している事の象徴と言える。

また、各エピソードで未来を開くキャラには、体のどこかに箒星の痣がある演出も心憎い。ただ、前世の記憶やカルマには深入りせず、人々がさまざまな形で時空を超えてつながっていることを示すに留めている。死は終わりではなく、新たな扉を開く瞬間となる。そして、知識や勇気、仲間や愛の支えによって人は変わり得ることを重ねて示すのだが、欲望を抑えきれない人類は今後も過ちを繰り返す。自らの愚かさで自滅したり、あるいは巨大な組織や国家に翻弄されたり、また反逆したりもする。そうした歴史の繰り返しの果てに、人類は滅亡の時を迎える。

まさに現在は相変わらず国家間の対立や武力衝突があり、偏狭なエゴイズムが蔓延し、そして、環境汚染、地球温暖化、核廃棄物の増殖と、地球の未来に対する不安要因は山積している。本当にこのままでは、近い将来には地球は滅びてしまうかも知れない。それでも、ラストで、僅かながらも残された人々は、希望を捨てず、懸命に生きようとしている。

希望を捨てず、懸命に生きようとしている

堕落したドクター・グースとして登場し、安ホテルのトボケタ支配人、酷評した書評家を殺してしまう作家と、人間のダークな面を象徴する人物を演じている主役のトム・ハンクスは、最後は人類の歴史を語るザックリー老人として登場し、物語全体を締めくくる。

6つの物語のうち最も印象的なのはネオソウルのエピソード。革命の女神に選ばれるクローン人間を演じた韓国人女優であるペ・ドゥナの透明感ある無機質な雰囲気がミステリアスで妙な存在感を示している。そして、彼女の運命に胸が痛む。

韓国人女優であるペ・ドゥナの透明感ある無機質な雰囲気がミステリアスで妙な存在感を示している

海洋アクション、サスペンス、ミステリー、ラブストーリー、SFなど、様々なジャンルがてんこ盛り。そして、いろんな映画のエッセンスやオマージュがいたるところに散りばめられている。この作品を1度観ただけで多くを理解できる人は物凄い映画通に間違いない。ほとんどの人は、後でプロの映画評論などを読んで「なるほど、そういうことだったのか…」ってなものだと思う。ただ、今までに観たことのない映画であり、「?」と共に不思議な感動を覚えることは確か。「マトリックス」同様、映画史上に残る名作なのかも知れない。そんな佇まいがプンプンと感じられる作品である。

観るというより、心で感じる部類の作品と言える「クラウド・アトラス」は、睡眠不足の時や体調の悪い時ではなく、心身ともに健全なときに鑑賞すべきである。案外と3時間という長尺がアッと言う間に過ぎるかも知れない。

心で感じる部類の作品と言える「クラウド・アトラス」

 
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