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2013.Apr. 21
和服の誘惑

最近では日常的に和服姿の女性を見かける機会は少なくなった。クラブのママなどの粋な和服姿以外には、成人式、卒業式、そして、結婚式といったイベント時にしか見られなくなった感覚だ。ただ、浴衣は花火大会や夏祭りといった夏のイベントの衣装として浸透しており、柄・素材とも多彩になっている傾向にある。

近頃の浴衣は、かつての湯上がり着の延長だった時代とは見違えるほど鮮やかでファッション性も高く、「ギャル浴衣」なども登場し、デパートなどは開放的な水着ファッションと、隠して魅せる浴衣という二本柱で夏の商戦を仕掛けている。

浴衣は花火大会や夏祭りといった夏のイベントの衣装として浸透しており、柄・素材とも多彩になっている傾向にある

1990年代後期からアンティーク着物やリサイクル着物の店が増加し、雑誌での特集などが火付け役となり、女性の間で徐々に着物ブームが起こっているのだが、これまでと異なるのは、従来の約束事にこだわらず洋服感覚で着る人が増えたことだ。洋服地で着物や帯を作ったり、洋服と重ね着したり、足下にパンプスやブーツを履いたり、帯揚げにレースを使うなど、新鮮な着こなしが楽しまれている。伝統を重んじる人からすれば、このような傾向は邪道と言えるものかも知れない。

現在の女性用の正装の和服の基本はワンピース型だが、女性用の袴は女学生の和服の正装の一部とされている。明治・大正時代に、学校で日常的に着る服として多くの女学生が女性用の袴を好んで着用し、女学生の袴姿が流行したことが日本の文化として定着した。そのため、現在でも入学式・卒業式などの学校の儀式で袴を正装の一部として好んで着用する女学生が多い。

現在の女性用の正装の和服には「黒留袖」「色留袖」「振袖」「訪問着」「喪服」などがある。これらの正装用の着物の特色は「絵羽模様(えばもよう)」によって柄付けがなされていることである。「絵羽模様」とは、小さなパターンが繰り返し染められている反復された模様ではなく、和服全体をキャンバスに見立てて絵を描いたような模様のことであり、脇や衽と前身頃の縫い目、背縫いなどの縫い目の所で模様が繋がるようにあらかじめ染められている。これらの正装用着物は、原則的に結婚式や叙勲などの儀式、茶会など格の高い席やおめでたい儀式で着用される。

留袖には、「黒留袖」と「色留袖」がある。「黒留袖」は地色が黒で染められているもので、「色留袖」は黒以外のものが地色のものを言う。黒・色共に原則として既婚女性用の第一礼装であるが、最近では色留袖が未婚の女性に着用されることも多くなった。なお、宮中行事では黒が「喪の色」とされており、「黒留袖」は着用しない慣例になっているため、叙勲その他の行事で宮中に参内する場合、「色留袖」が正式とされている。「黒留袖」は民間の正装とされている。

黒留袖

「振袖」は、主に未婚女性用の絵羽模様がある正装である。正式には五つ紋をつけるが、現在ではほとんど紋を入れることはない。袖の長さにより、大振袖、中振袖、小振袖があり、花嫁の衣装などに見られる袖丈の長いものは大振袖である。近年の成人式などで着用される振袖は中振袖となっている場合が多い。絵羽模様に限らず小紋や無地で表された振袖も多い。

また、「訪問着」は未婚、既婚の区別なしの女性用の絵羽模様がある礼装。紋を入れる場合もあり、生地は縮緬や綸子・朱子地などが用いられることが多いが、紬地で作られたもののある。その場合、紬はあくまでも普段着であるため、「訪問着」であっても正式な席には着用できない。

「喪服」は五つ紋付き黒無地で、関東では羽二重、関西では一越縮緬を使用することが多い。「略喪服」と言って、鼠や茶・紺などの地味な地色に黒帯を合わせる「喪服」もある。「略喪服」は、参列者及び遠縁者など血縁の近さ遠さによって黒喪服を着るのが重い場合や、年回忌の折に着用する。通常は三回忌以降は略喪服を着ることが多いようだ。

「付け下げ」は、「訪問着」を簡略化したもので、あらかじめ切って裁断された上に柄を置く絵羽模様ではなく、予定の場所に前もって想定し柄が置かれた反物の状態で売られているもので、縫うと「訪問着」のような位置に柄が置かれるものだ。一見「訪問着」と見紛うものもあるが、「訪問着」との大きな違いは柄の大きさや縫い目での繋がりの他、裾回しが表地と同じものではなく、表との配色が良い別生地を用いている点である。略式礼装に当たるため儀式などの重い席には着用されることが少ないが、趣味性の強い柄付けや軽い柄付けの「訪問着」より古典柄の「付け下げ」の方が格が上とされる。一般的な「付け下げ」は儀式ではないパーティーなどで着用されることが多い。

付け下げ

和服を着ることが既に非日常と化している現在では、着る場面によって女性用の正装の和服を選ぶマナーとしての基準は、古来よりあった「着物の挌」に基づいた規則に変化が生じる可能性は高い。

結婚式の披露宴で新婦が和服を着る場合は、大抵「振袖」を着る。しかし、50歳代以上の新婦でも結婚式の披露宴で「振袖」を着ていいのかどうかは、意見が分かれるところである。「振袖」が適しているのは、未婚の若い女性に限られるという意見があるが、当然、年齢は関係ないという反対意見も存在する。

結婚式で新婦以外の女性が和服を着用する場合においては、新郎・新婦の母親は「紋付の黒留袖」を着ることが望ましいとされている。新婦以外の女性の既婚者の参加者が新婦と友人であった場合、着物で出席するとき「色留袖」か「訪問着」が望ましいとされることが多い。しかし、場面によってどんな和服が適しているかの判断は現在では一般の人には分かり辛くなっているのが実情。新郎・新婦の既婚の姉妹は「色留袖」「黒留袖」のどちらが望ましいのかという点は、意見が分かれる。また、結婚式自体を豪華にする傾向が薄れてきたため、親族であっても「訪問着」などで出席する場合もあり、一概には言えない時代になってきているのが現状だ。

一概には言えない時代になってきているのが現状

また、着物と帯や小物などの組み合わせも厳密に着物の挌によって基本的には決められている。例えば、「留袖」や「訪問着」などの格の高い礼装は本来は「丸帯」であったが、現在丸帯は花嫁衣裳と芸者の着物に残るくらいで一般にはあまり用いられなくなり、戦後は主に「袋帯」が用いられている。この場合の「袋帯」は、基本的に緞子や金襴・綴れ織などの織物によって柄を織り出してある豪華なものが用いられ、帯全体に柄が織り出されている「全通」もしくは帯を締めたときに中に入って見えなくなってしまう所以外に柄があり、全体の六割程度に柄が織られている「六通」が主に用いられる。

ちなみに、男性用でも女性用でも、和服を着る際には、手を袖に通した後、右の「衽(おくみ)」を体に付けてから左の「衽」をそれに重ねる。このことを、左よりも右を(空間的ではなく)時間的に前に体に付けることから、「右前」という。

日本で和服をなぜ「右前」にするのか、また、いつから「右前」にするようになったのかについては、諸説があるようだ。時期については、「続日本紀(しょくにほんぎ)」によると、719年に、すべての人が「右前」に着るという命令が発せられた。これは、その当時手本としていた中国において「右前」に着ることが定められたので、それに倣ったものと言われている。

中国で「左前」にすることが嫌われたのは「蛮族の風習であるため」とされたが、この蛮族というのは北方に住む遊牧民達のことで、彼らは狩猟を主な生活として行う上で弓を射やすいという理由で「左前」に着ていた。農耕民である漢民族とは全く違う暮らしをし、しばしば農耕民に対する略奪を行っていた遊牧民達は、中国の古代王朝にとっては野蛮で恐るべき存在であり、これと一線を画することを決定したという説がある。

また、一説によると、一般的に右利きが多く、闘いなどの際、右手で刀を抜きやすいように腰の左側に刀を差すことが多いため、刀を鞘から抜こうとするとき、もし和服を「左前」に着ていた場合、抜こうとした刀が自分の右から流れている衿に引っ掛かってしまうことがないように、和服を自分の左から右に流れている「右前」に着るようになったのだという。

眠狂四郎

なお、死者に「死に装束」を着せる場合、通常と反対に「左前」に着せるが、これは「死後の世界はこの世とは反対になる」という思想があるためであると言われている。

残念ながら、和服の普及率が衰退していることは疑う余地がない。衰退の主な原因として、正装の和服は着付けに手間が掛かり、活動性に欠けること、着方によりある程度温度調節ができるものの、日本の大都市の夏場の気候には不向きであることなどが挙げられる。そして、何と言っても和服を着る機会があまりに少なすぎる。

大手チェーンの「やまと」では、「着る推進室」を新設し、着物を着ていく場所を提供するために行っている「きもの日和」を近隣店舗合同で行う大規模なイベント「合同きもの日和」を開催したり、着付レッスン「着付倶楽部」を全店で実施するなど様々な取り組みで着物着用人口の増加を図っている。

「合同きもの日和」の1回目は表参道で実施し、20代〜30代の顧客100名が参加した。2回目は60代まで参加者の年齢層を広げ、長野の博物館を巡り、海外からの観光客に写真撮影を求められるなど「参加者だけでなく街行く人からも好評」だという。

合同きもの日和

そして、3回目は今日、4月21日に神戸・元町を中心に開催される。着物姿の女性が総勢120名参加し、風情のある港町を行進する。元町を経てポートタワーから船着場まで一堂に歩き、豪華客船の「コンチェルト」でティータイムクルーズを実施予定。港町・神戸ならではの内容が企画されている。

和服姿の女性が大勢練り歩く光景はなかなか興味深い。

 
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