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2017 Apr. 10

2人の天才芸術家

15世紀イタリアで画家として才能を発揮し、建築、科学、解剖学の分野にまで関心を広げ「万能人」と呼ばれたレオナルド・ダ・ヴィンチと、10代から頭角を現し「神のごとき」と称された世紀の天才彫刻家ミケランジェロ・ブオナローティ。ちなみに、年齢はレオナルドがミケランジェロより25歳上である。

6月17日から9月24日までの期間、三菱一号館美術館で開催される天才芸術家2人の「レオナルド×ミケランジェロ展」は、芸術家の力量を示す上で最も重要とされ、すべての創造の源である「素描 (ディゼーニョ)」に秀でた2人を対比する日本初の展覧会。

レオナルド×ミケランジェロ展

また、素描の他にも、トリノ王立図書館やカーサ・ブオナローティが所蔵する油彩画、手稿、書簡など、約65点が一堂に集結。「宿命のライバル」とも言われた2人の作品を見比べる絶好の機会であり、イタリア・ルネッサンスを代表する2人の巨匠の作品を間近で鑑賞できるとても貴重な機会である。

彼らが生きたのは、古代ギリシア・ローマの古典文芸復興を目指す運動としてイタリアで開花したルネサンス時代。「自然」をあるがままに再現するため、解剖学に基づいた人体の把握、遠近法に則った奥行きや立体感、陰影法に忠実な表現といった基本的な規則が順守されていた時代である。

この頃は「自然を母とし、素描を父とすると、建築、彫刻、絵画の三姉妹がいる」という関係が強調されていた時代で、自然に則してデッサンすることは各芸術の基本中の基本であり、決して軽んじることはできないものであった。それだけでなく、素描そのものが作品としての価値を持つほど重要な価値を持っていたと言われている。そして、2人は芸術家の力量を示す上で最も重要とされるその素描において素晴らしく秀でていた。

今回の展覧会では、「最も美しい」とされる素描、レオナルド作「少女の肖像/〈岩窟の聖母〉の天使のための習作」と、ミケランジェロ作「レダと白鳥のための頭部習作」もこの特別展のために揃って来日する。

レオナルド作「少女の肖像/〈岩窟の聖母〉の天使のための習作」
レオナルド作「少女の肖像/〈岩窟の聖母〉の天使のための習作」
左利きのレオナルドは左上から右下へのハッチングが特徴的で、斜線の重なりによって濃淡が作られ、陰影が生まれている。左眼の上瞼、目元、左頬、ほうれい線、鼻梁、左頬、口元といったところに鉛白によるハイライトが施されており、光が当たってることを意味している。

ミケランジェロ作「レダと白鳥のための頭部習作」
ミケランジェロ作「レダと白鳥のための頭部習作」
ミケランジェロの素描としては最も知られている1点で、モデルは弟子のアントニオ・ミーニという男性と考えられており、右利きであるミケランジェロは、クロスノッチングと呼ばれる斜線を交差させる技法を使用している。頭部をよく観察すると、それによって立体感を出し、あたかも「削り取るように」素描を描いている。また、この作品では赤チョークが用いられており、濃淡によって凹凸を巧みに表現されている。

「レダと白鳥」の模倣作品に見る2人の対比
「レダと白鳥」は、スパルタ王テュンダレオースの妻であるレダを、白鳥に化けたゼウスが誘惑したというギリシャ神話の中のエピソード。彫刻や絵画などにおける題材として頻繁に用いられたことでも知られている。レオナルド、ミケランジェロの両者ともに、絵画となっていながらも、現在は失われてしまった「レダと白鳥」。今回の展覧会では、追随者による2つの模倣作品を通して、オリジナルの姿を明らかにし、比較している。

ミケランジェロに基づく「レダと白鳥」
ミケランジェロに基づく「レダと白鳥」
ミケランジェロの失われたオリジナル作品は、フェッラーラ公アルフォンソ・デステから依頼されたもの。自身の作品であるジュリアーノ・デ・メディチの墓碑に置かれた「夜」の寓意像の彫刻作品を思わせる俯いた女性の優美な横顔が印象的に描かれ、柔らかな雰囲気の中でレダと白鳥が向かい合っている。オリジナル作品は、ミケランジェロの弟子ミーニの手によりフランスへ渡ったが、17世紀半ばに焼却。この作品はオリジナルの下絵に基づき、後代の画家ブリーナにより制作された。

レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく「レダと白鳥」
レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく「レダと白鳥」
ミケランジェロの作品と比べて男性っぽさの強調された白鳥が印象的なレオナルドの「レダと白鳥」。画面左下には「レダには、2組の双子が卵から生まれた」とするギリシア神話に基づき、大きな卵から生まれたばかりの2組の双子が描かれている。この作品は、レオナルドの弟子の中でも筆頭としてあげられるメルツィの作品の可能性もあり、レオナルドが生きた時代に描かれたものと考えられている。左手に花を持つレダのポーズ、子どもに目を落とす様子はレオナルドが本来描いた構図とほぼ同じものとして、現在はフイレンツェのウフィツィ美術館が所蔵している。

他にも注目の作品が目白押し。「万能人」と呼ばれた画家レオナルドと、「神のごとき」と称された世紀の天才彫刻家ミケランジェロの作品が多数展示される。

ミケランジェロ作品

「背を向けた男性裸婦像」
背を向けた男性裸婦像
フィレンツェ共和国のピエロ・ソデリーニがミケランジェロに発注したヴェッキオ宮殿の壁画「力ッシナの戦い」のために描かれた習作。伸び上がるような姿勢の男性の背面には、筋肉の付き方が事細かに描かれており、彫刻家ミケランジェロの捉え方がうかがえる。また、レオナルドの「アンギアーリの戦い」の競作としても知られる作品で、ミケランジェロは下描きが終了した時点で、ユリウス2世によってローマに呼び戻されたため、「力ッシナの戦い」は未完に終わった。

「河神」の習作
「河神」の習作
蝋で制作された彫刻の習作で、主題はイエス・キリストと共に十字架に架けられた盗人であるとされてきたが、現在はギリシア神話の河の神と言われている。この仮説は、カーサ・ブオナローティが所蔵するより大きな「河神」の作品と比較しても根拠がある。この作品はメディチ家礼拝堂のために作られ、場所を示す役割を与えられる予定だったが実現しなかった。なお、このような彫刻モデルは、石材切り出しの職人に手渡され、彫刻の寸法の目安として使用され、鉱山までの輸送に耐える素材で制作された。

「イサクの犠牲」のための習作
「イサクの犠牲」のための習作
この作品は、彫刻レリーフのための素描。息子イサクに手をかけようとするアブラハムに対し、天使が止めに入っていくシーンを描いている。アブラハムと天使の距離が非常に近いことが本主題を扱う上でのミケランジェロの最大の特徴といえる。また、イサクの左膝の位置は未決定のためか、複数の膝が動くように描かれている。

レオナルド3作品+1

「髭のある男性頭部(チェーザレ・ボルジャ?)」
「髭のある男性頭部(チェーザレ・ボルジャ?)」
軍人チェーザレ・ボルジャの肖像といわれているが、確実な証拠はない。同一の肖像を異なる角度から捉えて3つの像を描いたこの作品は、他視点性により絵画や素描も「彫刻の様な立体性」に劣らず表現ができるというレオナルドによる表明でもあると考えられている。また、ヴァザーリによれば、ジョルジョーネの作品(現在は消失)にもモデルと鏡面を描いて異なる角度から同一のモデルを描く作品が制作されており、絵画の他視点性が強調されている。

「大鎌を装備した戦車の2つの案」
「大鎌を装備した戦車の2つの案」
レオナルドもミケランジェロも技師として仕事を依頼されることが多く、戦争の多い時代にはむしろそちらが本業であることもあった。この作品はレオナルドが考案した兵器だが実現しなかった。ここでは、馬車で大鎌を回転させ敵兵をなぎ倒していく様子が描かれている。

「老人の頭部」
「老人の頭部」
画家レオナルドは正面から肖像を捉え、人物の顔を正確に織密に描写する上で、その人の内面をもきちんと捉えることを意識していた。当時、観相学と呼ばれる性格と外見の呼応に目を向ける学問が流行しており、この作品においても、口元を固く結ぶ老人からは頑固な性格を思わせる。また、赤い地塗りが施された紙に赤いチョークを用いて描かれているのも特徴。

「美しき姫君」にまつわること
「老人の頭部」
ビアンカ・スフォルツァというスフォルツァ家の子女を描いたとされる「美しき姫君」。近年において作品に残された掌紋からレオナルド作ではないかという議論が起こった。髪留めや服飾を含めた肖像の正確な描写と、左利きを思わせるハッチング、ペン、インク、赤チョーク、黒チョーク、鉛白といった画材、羊皮紙という媒体に関するレオナルドの知識などから真作とする説がありながら、同時代の作家による作とする説、19世紀の模倣者による精妙な贋作とする説まで諸説が存在する。

アートファン必見の展覧会である。

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