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2018 May. 17

大門酒造の英断

伝統を守り抜くということは並大抵のことではない。それを守るために何かを手放さなくてはならないこともあるかも知れないし、かつては予想だにしなかった新しいもの考えを取り入れる必要も生まれるかも知れない。

だが、失われたら二度と手に入らない大切なものを次世代に残すためには、時代に応じた英断というものが必要になる時がある。1826年から続く造り酒屋の「大門酒造」にとって、この数年で下された大きな決断は、まさに英断と呼べるだろう。伝統を守るための覚悟と言い換えてもいいだろう。

大門酒造
大門酒造

昨年の10月1日。「日本酒の日」であるこの日、大阪の交野にある「大門酒造」には、国内外から日本酒好きが集まっていた。地元の人々、国内の日本酒愛好家に加え、海外の投資家も駆けつけていた。

大門酒造
大門酒造

6代目蔵元兼杜氏を務める大門康剛にとって、大門の酒を愛する彼らと直に接することのできるこの「大門フェスティバル」は待ちに待ったもので、「大門酒造」の新たなる出発を表明する日でもあったからだ。

大門酒造

創業者の半左衛門喜之の名前からつけられた「酒半」という屋号を持つ「大門酒造」は、生駒山系の麓に位置し、1826年より、山からの豊かな湧き水と豊かな自然に育まれた肥沃な地で育まれた米から、酸味の効いた飲み口の爽やかな酒を造り続けている。

日本酒を通じて日本の文化を体感できる酒蔵になりたいという思いが込められた「DAIMON」シリーズは、大切な人との時間や寛ぎの空間など、様々な食事シーンを彩るに相応しく、国境を越えて様々な料理とのマリアージュを意識した4種がラインナップされている。

「DAIMON」シリーズ

一方、190年以上の歴史を感じさせる、伝統的な日本酒の旨味を感じさせる美酒が「利休梅」シリーズ。

清少納言が、枕草子で「野はかた野…」とその情緒ある自然を讃えた交野が原。大阪府の北東部、奈良との県境に位置するこの地は、古くから稲作が栄えた土地であり、その恵みと豊かな文化の継承を存分に感じさせる日本酒で、いずれも、2018年からラベルをリニューアル。実は、そこに新たなる門出への秘めたる決意が感じられる。

「利休梅」シリーズ

実は、日本酒の国内消費量は減少している昨今、しかし、海外での日本酒人気が頻繁に伝えられているし、入手困難と言われる銘柄も多い。プレミアム酒と呼ばれる純米酒や純米大吟醸酒など地酒の類は人気が高まっている傾向にある。だが、日常的に楽しむ酒としては、ビールやワインなどの消費量が多く、日本人にとっても、もはや日本酒は日常的な酒ではなくなって久しい。長年にわたる日本酒文化の衰退がたたり、「大門酒造」も一時経営危機に陥った。敷地内には立派な酒蔵をはじめとする伝統的な建物があるが、それらを失う寸前までいったのである。

そんなとき、頼もしい助っ人が現れた。「大門酒造」の歴史と伝統を生かしながら、文化を継承していくため共に再生を目指そうとする仲間たちである。

大門酒造

「大門酒造」を救ったのは、香港を中心とした個人投資家たち。日本酒が好き、日本の食文化に可能性を感じている、日本の伝統に敬意を抱いている、歴史ある日本文化に関わることに興味がある、など理由は様々。だが、彼らに共通しているのは、我々日本人が、存在していることを当たり前に感じてしまっている伝統や文化に、大きな敬意を表してくれているということだ。

伝統的な日本文化の担い手たちの多くは、外からの干渉を嫌う。つまり、大門の決断はこの業界ではかなり特別なものと言える。それを可能したのは、若い頃に世界を放浪したという杜氏としては異色の経験を持つ大門康剛の視野の広さかも知れない。

大門酒造
大門酒造
大門酒造

日本を外から眺め、「世界に日本酒と日本文化の素晴らしさを伝えたい」という思いが募り、今に至ることから、伝統文化の継承者として自分が最もすべきことが明快で、決断に迷いがなかったのだろう。つまり、「良き理解者に国境はない」ということを知っているのだ。

現在、代表取締役CEOとして「大門酒造」の経営を取り仕切るのは、米国出身のマーカス・コンソリーニ。日本文化に造詣が深いこと、京都の町家再生プロジェクトに関わった経験があること、実家が飲食ビジネスを展開していることなどが、大門の新たなる挑戦への大きなチカラとなっている。

マーカス・コンソリーニ

日本では、長い歴史があるものが人知れず失われていく場合が多々ある。また、日本では誰かに助けてほしいと声を上げることが、格好悪いことだと思っている傾向があることは否めない。古いものを壊してしまったらもう取り返しがつかない。そして、損失の重大性がよくわかっている「大門酒造」には、助けを求める勇気があった。

もし、国内で手立てが見つけられないなら、海外に目を向ける必要もある。喜んで手を差し伸べる人々が海外には多くいる。それほど日本の文化を敬愛している者が日本人が考える以上に多いといえる。

今年6月には、昨年10月に仕込みを始めた新しいシリーズ「山」も完成する予定。「大門酒造」の周辺に広がる水田で実った酒米と、生駒山系の湧き水を仕込み水にした、地元の素材のみで作られた純米大吟醸。酒蔵の背後に聳え立つ山々に敬意を表してその名がつけられた。また、200年近い大門の歴史で初めて、年代物の古酒や季節限定の酒も販売を予定しているというから楽しみである。

大門酒造

新たな出発を果たした「大門酒造」は、良い酒を造ったその先も見据えている。現在は、江戸末期に建てられた仕込み蔵を改造したレストラン「無垢根亭」を週末限定でオープン。地酒と料理を味わえると人気を集めている。

無垢根亭
無垢根亭
無垢根亭

また、ジャズや落語のイベントも定期的に開催するなど、日本酒のある楽しい生活をさまざまなスタイルで提案。毎週金・土曜日には、酒蔵見学・試飲ツアーも行っている。この4月には、昨年の10月1日に第1回目が行われた「大門フェスティバル」の第2弾も開催された。今後は4月と10月の年2回、地元の「食」と大門の「酒」を楽しめるイベントを開催していくという。

大門フェスティバル

良き理解者を得て、やるべきことができる環境を整える。それも、伝統の継承者が背負う大事な使命なのだ。多くの伝統が「環境」を失って消えていく中、「大門酒造」が選んだ道は、今の日本が伝統とともに生きるための1つのヒントになるかも知れない。

 
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